デュークは料理が出来るのか。 世界をウロウロしていればワンダーシェフに会う機会くらいあった、よね…。 今のところ絶賛フレンがワースト1ですが、うまくてもへたでも萌えるなぁ。
そういった行為を重要視した事はなく、人と決別しつつも生きていく為に必要な行為として欠かす事は出来ない…ただそれだけの行為だった。 「そう言えばデュークは何が好きなんだ?」 「―――何が、とは?」 「………いや、普通この状況でそれを聞くか……?」 市場、色とりどりの新鮮な野菜の並ぶ店の前。 旅していたせいで随分手慣れてしまった手つきでジャガ芋の物色していたユーリは、その一言で手が止まった。振り返れば、おおよそこの雑然とした市場の雑踏に似つかわしくない美丈夫がすらりと立っている。 (すげー浮いてる…) 振り返ったユーリは、彼の不可思議な発言を一瞬忘れ、そんな事を思う。しかしまた一瞬でそれを思い出した。 「俺確かアンタの為に手料理を振る舞うって約束したよな?」 「ああ」 「だから何か好きな食い物あるかなー…ってつもりで聞いたんだけど」 「そうなのか?」 「……そうなんだよ……」 がくりと首が落ちる。 まあいい。元々デュークの生活感はゼロだ。今までどうやって生きて来られたのか、まったくどうにも想像が出来なくて困っていた所だ。その実態を説き明かすいいチャンスなのかもしれない。 ユーリは気を取り直して手頃なジャガ芋を三つと、ついでに人参を二本、玉葱を一つ購入した。すると店主がおまけにりんごを一つくれたので、果物の好き嫌いはないだろうと半分にしてデュークに寄越す。 「で?今までどーやって生きてたんだよ。人間見捨てたってアンタは人間にかわりないんだから、食べるのは必要だろ」 手元に残った半分をかじれば、真似てデュークもりんごをかじる。もらったりんごはみずみずしくて、若干酸っぱかった。 「…別に。普通に食事はしていた」 「ヨームゲンで?飯屋にでも入るのか?」 「幻であれ、人の街に干渉する事は本意ではない。生きるのに必要な術は自ら持ち得ている」 「へえ……」 と、いう事は料理がある程度は出来ると言う事か。 「………」 ユーリは想像力を働かせる。エプロンを着けて台所に立つデューク。手には宙の戒典ではなく包丁…あるいはおたま。 (それこそすっげー違和感…!) 「?……何故いきなり笑う」 ぶふ、とユーリが吹き出すと、あからさまにデュークが嫌な顔をする。しかしそんな事を言われてもおかしいものはおかしい。 「いや、だって…さあ。アンタそーいうの似合わないなって」 「そういった物は似合う、似合わない、と区別するものではないだろう」 「そうだけど、さ…うん、今度はデュークの手料理を食わせてくれよ。すげえ食ってみたい」 出来れば、作っている風景を眺めるのも含めて。 すると相変わらず眉をひそめたまま、デュークは、 「お前の言葉に他意を感じるが……まあいいだろう。しかし、お前が期待するような物ではないからな」 それでもうんと頷いてくれる。何だかんだ優しいのだ。 (ま、ただでさえ俺より強くて、それ以外もそれ以上も色々負けてるしな…) デュークに対し、一対一で何か一つ位勝ちたいじゃないか。もちろんそれも、実際目にしてみなければわからないが。 「おう。すげえ楽しみにする。だから、俺も頑張らないとな」 「ああ。楽しみにしている」 (お?) 少しだけ、驚いた。食事なんて生きる為の仕方のない、必要最低限の行為としか思っていなさそうなデュークからの、意外な一言。 (楽しみ、だって) ユーリの手料理への期待。確かにまあ多少期待してもらっても、その期待に応えられるだけの腕の自信は旅の最中につけてきたつもりだ。デュークに好みがないと言われれば、じゃあ得意な物(流石に今回は甘い物は控えようとは思うが)でも作るか、と考えた。それを楽しみだと、彼は言う。 振り返れば少しだけ微笑んだような表情の僅かな変化に、ユーリも何故か自然と頬が緩む。するとそれに気付いたデュークはまた眉をひそめ、ユーリの表情の変化に警戒した。 「今度は何をにやにやしている」 「な、何にもねえよ。つか、本当に好きな物とか食いたい物ないんだよな?勝手に決めて作っていいわけ?」 一応もう一度念を押した。今までで買い揃えた材料なら何でも応用が効く。煮込み料理なんて失敗がなくていいし、少し手の込んだ物の付け合わせにしてもいい。ただ洒落た物は性に合わなくて作りたくないから、あくまで庶民的な観点からだ。 「ああ。構わない」 「嫌いな物は?野菜とか、肉とか」 「出された物に文句は言わん」 「それじゃあ…」 「ユーリ・ローウェル」 それじゃあ後は肉を買ってシチューにしようか。途中で気が変わったらカレーにすればいいし、何とでもなる。そうして上機嫌に今から向かう店と帰り道を考えようとすれば、後は大人しく着いてくるだけのデュークがユーリを呼ぶ。振り返れば思った以上に互いの距離が近くなっていた。 ただでさえ混んでいた市場が、夕餉の支度で買い物に出て来た住人でより混んできたのだ。はぐれないよう傍に来たのだろう。 (何かすっげー悪目立ちしてるような…) 何度も言うが、デュークの容姿はこんな街の雑踏の中でも恐ろしく目立つ。しかし好奇の視線に晒されても、本人はまるで臆する事はない。それどころかユーリを呼んで、その往来のど真ん中に立つ。 ユーリに一瞬嫌な予感が過ぎる。最近こんなシチュエーションばかりのような、そんな既視感。本能的に今デュークを喋らせてはいけない、そう悟った時、 「ユーリ・ローウェル、私に遠慮をするな。お前が私に作りたい物を作ればいい」 「あ、おい、ちょ…デューク、ちょっとまて」 「お前が私に作りたい物を食べる事が、今の私の希望なのだから」 「〜〜〜!」 待て、と言ったのに。間に合わなかった。また止め損なった。 往来のど真ん中で、ど直球の言葉。そしてそれによって顔が熱くなる感覚。しかし自分がどんな顔をしているか確認出来ない今、いつまでもど真ん中で好奇の視線に晒されている訳にもいかない。 「〜〜〜わ、わかったから!もうそれでいいから行こう」 「何だ、お前から尋ねて来ておいて…」 「行くぞデューク!」 こんなもの、人込みに紛れてしまえばわからない。 手を掴んで引けば、背後でため息をついたデュークが大人しく着いてくる。振り回しているのか、それとも振り回されているのか。恐らくどっちも同じ事を考えているだろう。 (くそ、それでも嬉しいとか、超末期じゃないか) 悔しくて、掴んだままの手を強く握る。すると、 (あ) 綺麗で、生活感がなくて、まるで浮世離れしているデューク。けれども自然と握り返される手はやはりどんなに綺麗な顔をしていても、剣を握る者特有の硬い手の平なんだなと、今更ながらに気が付いた。
デュークは料理が出来るのか。 世界をウロウロしていればワンダーシェフに会う機会くらいあった、よね…。 今のところ絶賛フレンがワースト1ですが、うまくてもへたでも萌えるなぁ。