探り探り行っています。 というかまだ付き合ってるのかすら謎なんですが、ユーリはかなり意識してそうな。 デュークは懐くと天然タラシになりそうな気がする。
長い時間を友との約束の為に使い、自分にはそれでいいと思っていた。 しかし今この短い時間を彼と共に無為に過ごす。その一見すれば無駄だとも思える時間さえ、今は有意であると思える自分の中の変化とは。 「それでそん時レイヴンがー―――…」 ふと気付くと、随分話し込んでいた。 と言うよりは、ユーリの方が一方的に話すばかりでデュークはそれを黙って聞いているだけだ。本当にちゃんと聞いているのかと聞きたくなるくらい、彼は喋らない。ただじっとこちらを見て、ユーリの話を聞いている…と思われる。 これで聞いてないとすれば、一体何をしているのか。聞いていない相手に喋り倒す自分も、まったく聞いていないかもしれないデュークも。 「なんだ。いきなり黙ってどうしたユーリ・ローウェル」 「え、あ、いや…」 ちゃんと聞いていたらしい。聞いているなら聞いているなりの反応が欲しいものだが、こうして目の前で、あのデュークがユーリの話をただ黙って聞いてくれている事さえ貴重なものだ。 (つーか、一方的にオレが喋るだけだけど楽しいのかな…) 「?」 あんまり見詰めるものだから、こっちも黙って見詰める事にした。 「………」 「………」 するとデュークも何も言わず黙って見詰め返してくる。 そのまま何秒も過ぎたが、 「〜〜〜〜っ!」 (駄目だ…!なまじ顔が妙にいいモンだから、見てるだけで恥ずかしい!) 「―――先程から、一体何がしたいのだ。お前の行動は私には不可解過ぎる」 流石に機嫌を損ねたようで、眉根を寄せられた。勿論そんなつもりのないユーリは、ただ唇を引き結んで俯く。 「う…だ、だって、ちゃんと話聞いてるかなって…」 「聞いているだろう。それとも私の聞く姿勢に何か不満が?」 ちらりと上目使いに見ると、相変わらずまっすぐにデュークはユーリを見ている。彼の言う人の話を聞く姿勢とはこういう事なんだろうか。 (気が付かなきゃ良かった。気が付かなきゃ気にしないままでいれたのに) 「ユーリ・ローウェル」 急かすような、責めるような呼び声。ユーリは渋々と、目の前でこちらを凝視したままのデュークにと視線を合わせた。 「あ、あのさあ、アンタいつもそうやって人の話を聞く時、相手の事凝視すんの…?」 「凝視?人の話を聞く時は相手の目を見るものだ。話す側もそうだろう」 「いや、そうなんだろうけど…」 真っ向から正論できた。そう、デュークの言っている事に間違いはない。ただ、そうきっと、自分が意識し過ぎなんだ。 それを何といって説明したらいいのか。 しかもそれを説明する事は、それまた恥ずかしい事で。 「………」 長らく黙ってしまった。するとふと、デュークが吐息を吐き出したのがわかる。 「―――…別に詰まらなくない」 そうして呟くみたいに静かに告げる、まるで的外れな言葉。 「……え?」 顔を上げると、今度はデュークが目を伏せていた。元々伏し目がちな彼がそうすると、長い睫毛の影が頬に落ちて見える。 「別にお前の話が詰まらないから黙っていた訳ではない」 そんな事に今更ながら感動していたら、勝手にデュークが喋り出した。 「お前が話してくれる言葉の一字一句聞き漏らしたくないから、ずっと黙って聞いていた」 それはとても、とても的外れな…思い違い。 「え…っと、あの」 「それがお前に勘違いをさせたのなら謝ろう」 「その、さ」 違う。それこそ違う。そんな意味じゃない、のに。 「…何かすごい事言われた気がする…」 「?違うか?」 変に顔が熱いじゃないか。思わず頬を押さえてしまう。 最近わかった事がある。デュークは言葉を濁したり飾ったりする事をしない。というか恐らく知らない。長い時人と距離を置き、より長い時を過ごすエンテレケイア達と過ごして来た為だろうか。 恐ろしい事にこれら全てが無自覚だというのだから手に負えない。手に負えなくて、ユーリも止める術がない位だ。 「お前のしてくれる話が面白いのか、正直私にはわからない。けれどお前が楽しげに話す様子を見ていると、それが楽しいと言う事なのだとわかる。だから、お前がそうやって話してくれるのを見ていたい。駄目か?」 「〜〜〜〜!」 「ユーリ・ローウェル?」 そしてそのダメージは思いの外、でかい。 珍しく長台詞を語ったデュークを置いて、ユーリはがたんと席を立つとそのままスタスタと窓辺に向かう。そして一息に戸を開け放ち、すっかり日が沈んで冷たくなった外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。 「………」 「何をしている」 すーはーすーはー深呼吸を繰り返していると、ぬっと背後にデュークに立たれた。 「何してるって、何してるように見えるんだよ」 「深呼吸」 「じゃあそうだ。それだ」 「そうか」 「………」 デュークに何か面白い反応を求めてはいけない。けれども別にからかっている訳ではない。ただ、素直すぎるだけだ。 (素直すぎてもう犯罪だぜ…) ユーリは何だかもう力が抜けて、窓枠に体を預けた。するとそこに更にくる、トドメの一撃。 「この辺りの夜風は冷たくて体に障る。程々にしておけ」 「〜〜〜アンタ、さあ…」 背中に少しだけ重みがかかって、耳元に囁かれる。低いあの声でそんな事をされると、例え自覚はなくとも項の毛がぞわぞわ〜っと逆立つ。 すぐに背中にかかる重みはなくなるが、代わりにユーリはズルズルと窓枠を掴んだままその場に座り込んでしまった。 そして余韻が残る項を押さえて、一言。 「アンタのその無自覚の方が、よっぽど体に悪いぜ……」 「?」
探り探り行っています。 というかまだ付き合ってるのかすら謎なんですが、ユーリはかなり意識してそうな。 デュークは懐くと天然タラシになりそうな気がする。