あのひとは薔薇が嫌い―5―



(「大丈夫。ここまで来れるわけがない。だってここまで来るには最強の黄金聖闘士を何人も倒さなければならないんだから・・・。」)
ミスティの敵を取りたい。ミスティの屈辱を晴らしたい。彼の優しさを誰よりも知っている自分が。そう思いつつも、青銅聖闘士達がここまで来なければいいと祈っていた。
(「彼らが連れてきたアテナは・・・本物。」)
胸騒ぎがとまらなかった。


火時計の火が、一つ、二つと消えてゆく。
「・・・シュラの小宇宙も、消えた。」
「アフロディーテ様・・・!」
はたまらない、というようにアフロディーテに抱きついた。
「どうしたの?何も怖いことなんかないんだよ?」
アフロディーテはそっとの髪にキスをする。
「・・・そうですね。貴方は強いから・・・。」
、怪我をするといけない。奥に入っているんだ。」
「嫌です!・・・一人に、一人にしないで下さい。」
アフロディーテは困ったように微笑むと、の髪に白薔薇を挿した。


近づく二つの足音。アフロディーテはをマントの後ろへ隠した。


「ここが・・・最後の宮、双魚宮!」
がその陰からそっと覗くと、少女のような顔をした少年と、みなぎる闘志を露わにした小柄な少年――その聖衣は紛れもない、ペガサス。
「ペガサス!」
あの少年に、誇り高いミスティが傷つけられ、殺された。
怒りと悲しみに震え、はアフロディーテのマントをぎゅっと握る。

「あいつが魚座のアフロディーテ・・・しかし本当にあれが男かよ!?」
「星矢、さあはやく教皇の間まで一気に突き進んでくれ!」

「あれが男か・・・って・・・アフロディーテ様に向かって何てことを!・・・ちょっとあんたね!」
いきなりアフロディーテの後ろから現れた女性に、二人の少年は面食らった。
!」
アフロディーテの制止も聞かず、は二人の前に立ち塞がる。
「・・・ペガサス、ミスティ様を返して!」
「あ、貴女は・・・。」
「私の、私のミスティ様を!」
は髪の白薔薇を抜いた。アフロディーテに渡されたブラッディローズ。
「この白薔薇は・・・貴方の心臓を射抜く。ミスティ様の悔しさはこの私が晴らしてみせる!掛かって来なさいよ!ペガサス!」
少年は悲しそうにを見た。
「そうか・・・貴女はミスティの・・・そうだよ。このオレが殺したんだ。でも、アテナの・・・。」
「アテナの為・・・?それならもっと他に方法はなかったの?わからせてあげる程の力もないの?ミスティ様だって私闘を演じる青銅聖闘士達に天誅を与えるという命令を受けたから行ったの!どうして殺してしまったの?あの人は、優しい人だった・・・何がアテナだっていうの?女神だっていうの?!」
ペガサス――星矢も、もう一人の少年も、じっと黙り込んでしまった。
。」
「・・・アフロディーテ様?・・・っ。」
半狂乱になっているを振り向かせ、アフロディーテは口づけた。二人の少年はいきなりの展開にたじろいでいる。
前よりも、もっと、もっと、深く熱い口付け。
甘い液体が、口移しにの喉下にそそがれた。
「おやすみ。少し、待っているんだよ。・・・彼女の悲しみを見たか?君達。アテナなど・・・その程度のものなのだ。」
「星矢!早く!」
「・・・あっ、ああ・・・ちょっと、通らせてもらうぜ!」
アフロディーテはフッと口から魔宮薔薇を飛ばした。
「貴方には、星矢が双魚宮を抜けるまで動かないでいてもらうよ!」
アフロディーテの手にチェーンが絡みつく。




の意識はそこで途絶えた。



(「アフロディーテ様・・・大丈夫?」)
(「ああ・・・もう終わったのだよ。。」)
(「なあに?」)
(「もう、忘れてもいいんじゃないかな?」)
(「・・・ミスティ様のこと?」)
(「いや、忘れてくれとは言わないよ。でも、もう彼には君を守れないから・・・。」)
(「アフロディーテ様・・・ずっと、一緒にいてくれる?」)


「今こそうけろアフロディーテ!この瞬の、真の力を!」

「わたしにこの白薔薇をうたせたのは君が初めて・・・誉めてやるぞアンドロメダ!」

「爆発しろ、ネビュラよ!」

「な、なにいっ・・・!?」


・・・薔薇の香り。
はゆっくりと目を覚ました。
目に入ったのは、血に染まった薔薇をその胸に受けた少年と。
・・・沢山の薔薇の花に包まれた、アフロディーテの・・・。

「いっ・・・。」

(「・・・その白薔薇は私自身。私の代わりに、きっとその薔薇は君を守ってくれるよ。」)

「いやあああーーっ!」

(「もっと、もっと愛してあげたかった・・・。」)



聖域にアテナが戻って来た。
それと入れ替わりに、は聖域を出た。

、送って行こうか?」
「いいんです。ありがとう・・・ミロ様。魔鈴さん達も。」
ミロや魔鈴、シャイナの尽力で、はロドリオ村に働き口を見つけた。本当はギリシャを出たかったのだが、毎日ミスティとアフロディーテの墓前に花を捧げるために、ロドリオ村に留まることにしたのだ。

ミスティには気高い白百合の花を。

アフロディーテには優雅な薔薇の花を。

今日も、愛しい男達のために。












続きます!意地でもハッピーエンドに・・・したい・・・