あのひとは薔薇が嫌い―6―
聖闘士達の眠る慰霊地。毎朝、薔薇と百合の花を抱えてはやって来た。
(「どうしたんだろう?・・・シャイナさんに・・・聖闘士達がいっぱい。」)
しかし、その日の様子は、明らかにいつもと違っていた。
「。」
「シャイナさん・・・どうしたんですか?」
「今すぐ、ここを離れるんだよ。」
何がなんだかわからないだったが、慰霊地の辺りを見やると、すぐに察した。この聖域に何かが起こっているのが。
聖闘士達の墓が荒らされている。・・・ミスティの墓も、ひときわ大きなアフロディーテの墓も。昨日捧げたばかりの花は跡形もなくなっていた。
「いったい・・・何が?誰がこんなひどいことを!」
「いや、これは外側からあばいたというより・・・内側から崩したような感じだよ。」
「あっ・・・。」
(「これは・・・コ・スモ・・・?というのだった?わからないけど、でも・・・。」)
薔薇の・・・香り。懐かしい、あの・・・。
「!どこに行くんだい!・・・お前達、を止めるんだ!」
シャイナの命令で、聖闘士や雑兵がを捕らえようとした。
「近寄らないで!アフロディーテ様からもらったブラッディローズがここにあるんだから!」
は髪から白薔薇を抜いた。
それを突き出されては、シャイナも、聖闘士達も全く手が出ない。
「シャイナさん・・・ごめんね。」
「!・・・アフロディーテは。」
は走った。その香りのもとへ。
(「アフロディーテ様が・・・生きている!・・・ああ、何て言えばいいの?ああ、髪をもっと綺麗にまとめて来ればよかった・・・昨日買った口紅、付けてくればよかった!・・・アフロディーテ様!」)
12宮の入り口・・・白羊宮。
「ああ、やっぱり・・・アフロディーテ様っ!・・・え?」
そこにいるのは、紛れもなくアフロディーテ。そして、同じく死んだはずのデスマスク。二人と対峙している牡羊座のムウ。
「聖衣が・・・黒い・・・?」
「・・・それでもかつては女神の聖闘士か!恥を知れ!」
(「な・・・何をしてるの?」)
「さあ、ムウそこをどけ!もはやお前では話にならん!女神の首は俺達がとってきてくれるわ!」
(「女神の・・・首?」)
「クリスタル・ウォール!!」
「アフロ・・・ぐっ・・・。」
アフロディーテのもとに駆け出そうとしたは、背後から誰かに捕らえられ、口を閉ざされた。
「怪我をしたくなければ余計な真似はするでない・・・。」
「どけデスマスク。ムウごときの技、このアフロディーテが粉砕してくれる・・・ピラニアン・ローズ!」
(「あ・・・アフロディーテ様!」)
アフロディーテの放った黒薔薇は、ムウのクリスタルウォールにはね返される。
「ぐあああーっ!!」
「アフロディーテ様!」
その瞬間、を捕らえていた腕の力が緩んだ。
「ア、アフロ・・・!」
「しまった・・・あの女の持つこの小宇宙は・・・?いや、小宇宙ではない・・・何だ・・・この熱さは・・・。」
「アフロディーテ様、しっかりしてー!?」
は地面に叩きつけられたアフロディーテのもとに駆け寄る。
「・・・?」
「戻ってきてくれたんですね!アフロディーテ様・・・!私、私!」
「・・・私達の命はたったの12時間なんだ。」
「えっ・・・。」
「それまでに女神の命を取ってこなければならない。・・・、幸せに暮らすんだよ。」
「そ、そん・・・。」
・・・・ふっ・・・・
「シオン!」
「あの女は安全なところへ移した・・・さあ、我々に残された時間はわずか・・・早く、女神の首を!」
(「アフロディーテ様・・・どうして、どうしてあんなに辛そうだったの・・・?私に話してくれなかったの?」)
「・・・アフロ・・・。」
「ああ、気がついたかい。」
そこは自室のベッドの上。ガタリとドアが開き、シャイナと魔鈴が入って来た。
「何が・・・あったんですか?」
「・・・アフロディーテは。」
口を開いたシャイナを魔鈴が制した。
「いいんだ・・・後からゆっくり話してあげる。さあ、食事を摂るんだよ。」
は全てを知らされた。
悲しかった――アフロディーテの心を、救ってあげられなかったことが。