きっと周りはいらいらしてるに違いない。 デュークよりも上手な…でメンバーを募った結果、ジュディスに活躍して頂きました。 このままだと進展ないよ、きっとこの二人。 さて、やる気になったデュークさんと、こんな事になってるとは露とも知らないユーリ。 次回をお楽しみに(?)
この時、まさか後々『あんな事』になるなんて、思いも寄らなかったんだ。 「じゃあ、ちょっと言ってくるな」 「ああ」 「オレがいなくてもちゃんと飯食うんだぞ。後、雨が降って来たら洗濯物を取り込むのと、寝る時は入口に鍵をかけて…」 「皆まで言うな…お前は私の母親か」 「いや、だって何かアンタ心配なんだよな…」 「いいから、行け。私の心配など不要だ」 「まあ確かに……じゃあ、いってくる」 「わおん!」 そう言ってラピードを伴い、ユーリは出掛けて行った。途中もう一度振り返って手が振られ、キスの一つでもして見送れば良かったかと、ほんの少しだけ後悔する。 やがて二つの背が森の中に消えても、デュークは小屋の中には戻ろうとはしなかった。小屋の入口に背を預け、鬱蒼と茂る森の樹木を眺めながら思う所があったからだ。 「………」 最近『ユーリが訪れる』回数よりも、『自分が見送る』回数の方が増えたような気がする。 彼も暇ではない筈だ。凜々の明星のメンバーとして文字通り世界を股にかけている今、こんな不便な場所より元より暮らしていた帝都に腰を据えていた方が楽だろうに。 (それを指摘しない私も私だが…) 最近、彼に『触れたい』と思う回数も多くなった。しかし起きて活動している最中は極端過ぎる程にユーリが反応するので、あまり意識してしないようにはしている。意外と眠っている間が無防備なので、ラピードが本人に密告しないのをいい事に触れたりしてはいるが。 それは本来、人との交わりが希薄な自分にだって不要な事だとわかる。わかる、のだが…その欲求をうまくコントロール出来ない。 (こういうのを何と言ったか…) ここの所デュークの悩みはそればかりだ。今自分の状態を表現する適切な言葉が見付からない。それを聞くきっかけも掴めないまま、もう幾日が過ぎている。 「!」 その時だ。さっと頭上に影が走る。それには見覚えがあったので、デュークは特に警戒する事もなく、じっと森へ続く小道を見やった。 やがて程なくして、先程ユーリが抜けて行った辺りから一人のクリティアの女性が姿を現す。 「―――あら」 「ユーリ・ローウェルなら出掛けたが」 「それじゃあ入れ違いになってしまったのね。折角迎えに来てあげたのに」 凜々の明星のメンバーである彼女と、面識がない訳ではない。しかしそれだけだ。このまま対面し、ただ何か話す事もない。 そして彼女もまたユーリを追い掛けてすぐにこの場を発つだろうと思い―――…。 「………追い掛けて行かないのか?」 しかしいつまで経っても去ろうとしない彼女に、デュークは仕方なく声をかけた。何せこちらをじっと見ているのだ。無視するにも居心地が悪い。 すると彼女は笑い、 「バウルで追い掛ければすぐだから」 と言う。 バウルとは、凛々の明星の機動力の要と言われる始祖の隷長だ。先ほどこの小屋の上をよぎった大きな影がそうである。もともともう数の少なかった始祖の隷長が精霊となった今、ミョルゾを飲み込むクローネスと彼ぐらいが現存する始祖の隷長の生き残りだろうか。 ユーリの話では、この今目の前にいるクリティアの女性の親友なのだと言う。その事は少し、デュークに己とエルシフルを思い出させた。 もちろんそんな感慨を、顔に出すデュークではない。 「早く拾ってやった方が喜ぶのではないか?」 「いいのよ。旅してた頃に比べて運動量減っているし、ちょっとくらい歩いたり戦ったりした方が彼の為だわ」 「………」 手厳しい。しかしそれが彼等の方針ならデュークの口を出す領域ではない。 しかしだからと言っていつまでもそこにいられても、対処に困る。そう言えば名前も知らないではないか。 「まだ何かあるのか?」 嘆息して、問い掛けた。ユーリはこちらから話さなくても何かと話し掛けてくるから困らないが、何も話さず、ただじっと見られると居心地が悪い。だからと言って、自分が住まう場所を、自分が遠慮して出ていくのもおかしな話だ。 すると不意に彼女の笑みが深まった。両腕を後ろで組み、ややうかがうよう体を横に折った状態で、デュークを見る。 「ずっと聞きたいと思っていたのだけれど……」 「?」 「アナタとユーリは付き合っているのかしら?」 疑問を口にした。 「―――………付き合っている?」 その言葉を反芻して、デュークは考える。付き合っている、とはまた抽象的な言葉だ。その言葉は一体どのような意味をもたらしただろうか。 ・『付き合う』 ―――行き来したりしてその人と親しい関係をつくる、交際する……確かに違いない。もっとも自分が動く事はあまりなく、行き来しているのは主にユーリの方だが。 「………ああ。確かに付き合っているな」 十分熟考して、デュークは頷く。その言葉に訂正すべき間違いなどない。 すると彼女は、「あら、やっぱりそうなの?」と言葉の割に驚いた風もなく言って見せた。しかしその反応に、逆にデュークは違和感を得る。 自分は何か、間違った解釈をしなかっただろうか、と。 だがそんなデュークを無視し、クリティアの彼女はもうとっくに見えないユーリの姿が消えた森の向こうに視線を向ける。それからまた、デュークへとその魅惑的な笑みを向けた。 「ユーリは貴方の事が大好きなのね」 「…好き…?」 言われ、怪訝そうにデュークは眉根を寄せる。しかしまるでそんな事を気にした様子もなく、彼女はクリティア族特有の器官である触手を、まるで長い髪を撫でるかのように触れながら続ける。 「そうでなければ、私から見てユーリの行動は実に滑稽だわ。何も関係ない、興味すらない人の所に通い妻なんて。しかも、何の見返りも無しに。彼は貴方に何かしらの見返りを求めたことがあって?」 「それは―――…だから私の事を好きだと言うのか」 「だってそうでしょう?好きでもないのにこんな辺鄙な所へせっせと足しげく通って。好きでもない、見返りも求めない…なんて相当のお節介ね。まあ元々、彼はお節介ではあったけれど」 そう言って笑うその口ぶりは、まるで自分もその『お節介』の経験者だと言わんばかりだ。苦笑はするが、しかしそれが悪いとは言わない。 あの時、時折旅をする彼等と自分の道は交わる事があったが、彼等に何があったのか詳細まではわからない。しかし最初に会った時から会うたびに増えていく仲間に、彼等を惹きつける何かが彼にあるのだと思っていた。 そしてそれは、自分にも向けられていた。 ―――けれども。 「あら、その様子じゃあユーリ、貴方には何も言っていないの?」 「私は何も聞いていない」 「ああ、そうなのね。―――でもそれもまた、彼の悪いクセだからしょうがないわね」 「………」 好意、という言葉の意味くらい知っている。しかしこのあまのじゃくな彼女の事だ。ただ単にそのままの意味で使っている、という事ではないのだろう。 彼がここに来る理由―――あの頃から感じていた、ただその性分によるものだと思っていた。 (私は何故考えなかったのだろう) 確かにそうだ。人の活動に、何等見返りを求めずに行う物などない。何事にも対価が存在するように、どんな無償の行為にすら何らかの形で対価を得られるようなっている。それは物のように形があったり、感謝の気持ちのように形がなかったりするに関わらず。 しかし対価とは片方の求めだけでは得られない。押し付けられた見返りを求める好意に、感謝する者などいないだろう。それは相手が求めた事により初めて、対価となり得る何かと取り替えられる権利を持つ。 そうでなければ単なる押し付けと、強奪だ。 (だが彼は私に何も求めたか?) 「好きになってその相手に好意を示す時、人は必ず相手にも『自分を好きになってほしい』という対価を求めるわ。そしてそれはごく自然なこと」 「私は」 「けれどもそれを口にすれば、単に押しつけがましいだけ。ストレートだけど、スマートではないわね。ただ相手が『ものすご〜くそういうのに鈍い』人なら、それもまた有効な手段なのかもしれないけれど」 「………」 「でもきっと、ユーリはそういうタイプの人間ではないわね」 「―――…ああ」 (私は一度も、彼の口からそんな言葉を聞いたことがない) はたしてそれは、そうだっただろうか。 何も聞かなかった?何も気付けなかった? 何も、彼はそんな素振りなど見せなかっただろうか?何故それを口にしないのだろうか。 デュークはずっと、自分は長く人である事を捨てていた為に、人を求めると言う事と、その感情というものも失くしてしまったと思い込んでいた。 (しかしそれは、私の単なる思い違いだった。10年前のあの時からずっと、私は結局人としての感情を捨て切れていなかった) 人を捨てて、己を捨てて、感情を捨てて。しかし結局は友との約束を果たすというただ一つの妄執に取りつかれていただけだった。それを感情と言わずとして何と言う。 人は所詮人にしか成りえない。 (無くせたのではない。忘れていたのではない) ―――こういうのを、何と言ったか。 それこそ、単純な話ではないか。何故何もわからなかったのだろう。気付けなかったのだろう。それとも気付いていて、ただ、それを理解できなかっただけなのか。しかしそれではあまりにユーリに対して不誠実すぎる。 手を伸ばし、触れる体温。 そして触れた、唇。 それらに対して、彼は何を思っただろう。 彼は何を、自分に求めているのだろう。 何故自分は、そんな事を何の違和感もなくする事が出来たのか―――不覚にもそれを、他人の助言によって気付かされるとは。 「そう言えば」 「?」 黙ったまま何も言わなくなったデューク事など構いもせずに、彼女がさも今思い出したと言わんばかりに声を上げた。 「彼、最近あまりザーフィアスの下町にも戻っていないようだから、ギルドの集合が面倒で…貴方が街の近くに移住してくれたら問題もないのだけれど」 もしかしたら、それが彼女の本音なのかもしれない。しかし讃えた女神像のように美しい微笑からは、その真意は探れない。何が本音で何が建前なのか、それは恐らく彼女の気分次第なのだろう。 好奇心旺盛で学者肌な者が多いクリティア族でありながら、彼女はやや異質かと思われたが、その実はやはりクリティアの本質そのものであるようだ。 「そうか…それはすまない。少しは考慮しておこう」 「あら」 「なんだ」 「例え間違っているとわかっていても途中で自分の考えを捩曲げたりはしない人だと思っていたのに。意外と物分かりがいいのね」 「………」 彼女のそれは、まるですべてを見透かして操っていたかのようで。しかしそれを別に憎いだとは思えなかった。気付かせてくれたのは、その本心を見せないあまのじゃくな口なのだから。 ただ少し、真っ向から口で相対するには苦手な相手だな、とだけ思って。 「……礼は言っておく」 「何の事かしら?私はただ、ギルドの掟を守っただけよ」 目を細めて飄々とそんな事を言う。 「―――…やはり、人とは厄介だな」 「貴方も人よ。ユーリもね…さあ、そろそろユーリ達を拾って行こうかしら。お邪魔したわね」 言うが否や、まるで来た時と同様、風のように彼女は立ち去っていく。残されたデュークはまるで狐につままれたような心境だ。 不思議と、それが不快だとは思わなかったが。 「そう言えばまだ、名を聞いていなかったな」 しかし凜々の明星の面子ならば、いずれ見える機会もあるだろう。ここに、彼が帰ってくる限り。 「……ユーリ・ローウェル」 もう、その音を口にする事に慣れてしまった。 「人を捨てても所詮は人である事を辞められぬ、か」 自嘲気味に呟いてデュークは出るつもりでいた足を小屋へと引き戻した。行ってくる、と出掛けた彼はまたここに帰ってくるつもりだろう。しかしデュークはそれについて待っていると答えたつもりはない。 だが、扉を閉ざす理由はとうに失っていた。 彼が帰ってきたきっとその頃には、この言葉にする事を忘れたこの気持ちを、口にする事を思い出すだろうと思って。
きっと周りはいらいらしてるに違いない。 デュークよりも上手な…でメンバーを募った結果、ジュディスに活躍して頂きました。 このままだと進展ないよ、きっとこの二人。 さて、やる気になったデュークさんと、こんな事になってるとは露とも知らないユーリ。 次回をお楽しみに(?)