現代文化論

 浜崎あゆみの2002年は、怒涛のごとく、またアーティストとして大きく成長した一年だったとい
えよう。音楽シーンでの特徴は、何と言ってもアジアへの進出であろう。2002年1月1日には4th
アルバム「I am...」をリリース、初登場1位・売上230万枚、翌2月にはシンガポールで行われた"
MTV ASIA AWARDS 2002 "に出席、"Most Influencial Japanese in Asia"(アジアで最も影
響力のある日本人アーティスト賞)受賞、帰国後4月から全国ツアーを敢行し、続けざまに6月
にお台場でオープン・エア(野外ライブ)を、7月アリーナツアーを、8月からスタジアムツアーと
同時に夏のイベントa -nation(avex)へ出演、さらには9月北京で行われた"日中国交正常化30
週年記念コンサート"出演、続く10月にはレギュラーTV番組「ayu ready?」(フジ系)スタート、
28thシングル「Voyage」のPVである長編ミュージック・フィルム「月に沈む」(監督:行定勲)公
開。11月には27thシングル「H」(「independent」「July 1st」「HANABI」3曲A面)が今年(2002年
度)唯一のセールス100万枚突破、12月には5thアルバム「RAINBOW」リリース、そして第44回
日本レコード大賞を二年連続で受賞した。
 映画やTVに活躍の場を広げ、さらに音楽活動では作風の進化まで見せつけた2002年の浜
崎あゆみ。低迷する音楽シーンで独走状態だった彼女が、走り続けた1年間を振り返り彼女
自身"今までで一番幸せ"だと語っている最新アルバム「RAINBOW」についてレポートしたいと
思う。
 まず、この「RAINBOW」で注目する点は何といっても浜崎あゆみの作詞に関する作風の変化
であろう。歌詞の中に英語が使われるようになったのだ。
世間一般に知られているように、浜崎あゆみの書く歌詞には英語が全くつかわれていない。こ
れは、浜崎あゆみ自身が英語が苦手であるということと、日本語だけで彼女の意思(唄)を伝
えたいという思いがあったからだ。
しかし、全ての楽曲の作詞を手がける彼女の曲の題名タイトルはすべて英語で記されている。
これは、タイトルを英語にすることによってその曲を聴いてくれた人それぞれのオリジナルの訳
をつけて欲しいという意図が隠されている。
例えば、彼女の大ヒット曲「SEASONS」を取り上げて見てみると、タイトルを日本語で「季節」と
してしまえば、それ以外に意味をもたない、いわば固定したイメージの曲になってしまうのに対
し、タイトルを英語にすることによって「季節たち」「時期」「シーズン」「絶好機」「〜の頃」などさ
まざまな訳し方がある。曲を聴いてその人に感じた訳をつけて欲しいということである。
では、なぜ浜崎あゆみが今作のアルバムから歌詞に英語を使いだしたかというと、やはりアジ
アへの進出が大きく影響している。
この「RAINBOW」は、アジア7カ国で同時発売された。言語も文化も日本とは全く異なるアジア
各国をフィールドにしても、歌いたいこと、思いを伝えたいこと、届けるスタンスに変わりはない
と彼女は言っている。ただ求めてくれる人が日本から世界に広がったことにより、世界共通語
である英語を使おうと思って出てきたのではなく(意識したのではなく)自然と英語が出てきたと
本人が語っている。
アジアへの進出、このことが浜崎あゆみの作風に変化を与えていることは確実である。世界の
人々にayuの歌を届けるために彼女にとって英語という新しい表現方法を確立したと言えよう。
アジアでの浜崎あゆみという存在については、タイで「ますます激化していく貧富の差について
どう思うか?」と聞かれて彼女は、「どこにいてもどんな人に対しても私は浜崎あゆみであるし
かなくて、どういう状況でもどんな人に対しても夢とか希望とかを与え続けていくために存在して
いる、それだけです。」と答えている。
また、北京でのライブでは、照明が真っ暗でどれだけの人がいるのかも反応もわからないステ
ージで公演終了時、お客さんが立ち始めて公安(警察)の人が止めても前のほうへ集まってく
る観客を目前にした時浜崎あゆみは、「今に賭ける情熱をすごく感じ衝撃的で思わず泣いてし
まった。今度いつ会えるかわからない、もしかしたら二度と会えないかもしれない、今しかない
っていうのをすごく感じた。」と語っている。
もう一つ考えられることとして、今秋から放送開始されたTV番組「ayu ready?」(フジ系)の中
で、ゲストのアーティストと一緒にゲストのヒット曲を歌うというのがある。もちろん、英語の歌詞
も含まれている。英語の歌詞を歌うことに慣れていなかった浜崎あゆみが英語に触れる機会
が増えたこと、英語の歌詞を歌うことに抵抗を持たなくなってきたこと、これも一つの要因では
ないかと私は思います。
このようなことから、アジアの人々(だけでなく世界中の人々)により、浜崎あゆみというアーティ
ストを知ってもらう為に新たな表現方法である英語を使うようになったのである。しかし、歌詞
の内容に嘘は書かれていないのは今まで通り浜崎あゆみの最大の作詞のポイントであること
には変わりはない。

次に注目すべきポイントは、5thアルバムとしての「RAINBOW」である。刹那を歌わせたら彼女
の右に出るものは言わしめた、これが浜崎あゆみのアルバムかと思う人も少なくないだろう。
浜崎あゆみがこれまでに出した4枚のアルバムについて簡単に見てみると、1stアルバム「A 
Song for XX」は「ayuの自伝的なアルバム」、2ndアルバム「LOVEppears」は「ayuと様々な人達
との"愛の形"を描いたアルバム」、3rdアルバム「Duty」は「ayuと世の中との関わりを描いたア
ルバム」、4thアルバム「I am...」は「ayuの存在意識、世界観を描いたアルバム」である。いず
れにしてもどこか刹那・無常観を感じることが多かった過去4枚のアルバムに対して新作5thア
ルバム「RAINBOW」は「祝福の気配に満ちている、幸せになろうよと音が呼びかけているアル
バム」である。
このことについて浜崎あゆみは雑誌で、「今まででいちばん、幸せとか平和とかいう言葉がでて
る。」と語っている。日々の中での自然な変化、健やかに確かに成長した心の丈が、このアル
バムを構成し、彼女に歌わせたのであろう。
また彼女はこのアルバムについて、「もちろん刹那的な部分は変わらずあるが、私がどういう
ことを痛いと感じ、どんなものを抱えているのかということは十分伝える機会をもらってきたな
と、聴いてくれた人もたくさんいると思っている。私がわかって欲しいと思って発信した人はきっ
ともうわかっていて、だったらこの部分を叫んでもね。わかっているから。私の中の"信じてる"
という部分につながっていると思うんですが、もういいかなって、もう大丈夫かなって思って。」と
語っている。つまり、浜崎あゆみをわかってくれる人はちゃんとわかってくれているという安心
感が新たな一歩を踏み出す勇気を与えてくれたということである。
「真実はひとつと誰が決めたの?」と歌う「WE WISH」を筆頭に、迷いのない燐とした彼女の顔
が作品群から浮かんでくる。日常に煌めきを与える。しなやかで強いのだ。
「100%に足りなかった部分は、次の力へ。…まだ続いているから!」この言葉が印象的であ
る。彼女のさらなる活躍に期待したい。


《参考文献》 ・http://setsuka.tripod.co.jp 「恋人達の指輪」
       ・「CDでーた」新春合併超特大号
       ・TV「想い出の曲すべて見せます!ベストソング200+3」
         (2003年1月1日放送・名古屋テレビ)



ちなみに、このアルバムにはアルバムタイトルであるRAINBOWがトラック0として表記されてい
るがこの楽曲は収録されていない。このアルバムに封入されているパスワードによる期間限定
サイトでこの曲の原型を視聴することが出来る。楽曲から受けるイメージをキーワードにして応
募すると、浜崎あゆみがその意見をまとめ楽曲として完成させ2003年最初のシングルとしてリ
リースされます。ファンを大切にするayuならではの斬新的なアイデア&試みである。


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