包み込むように・・・







「ラインハルト様・・・お食事の用意が出来てございます。」
ラインハルトの私室の扉をノックする音とともに、可愛らしい声が響いた。
銀河帝国元帥ローエングラム・フォン・ラインハルト。彼の側近くに給仕するメイドは、いつの間にか、新入りメイドの一人に限られていた。
それは、本人にとっても不思議で仕方のないことだった。まだ下っ端の自分が、どうしてこのような名誉ある、責任の重い役目を仰せつかっているのか。
「そうか・・・今行く。フロイライン・・・。」
メイド達の中で、ラインハルトにそんな呼ばれ方をされるのはだけだった。彼女は呼ばれる度にヒヤリとする。下っ端の自分がそんな風に呼ばれていることを、上役達に聞かれたら大変だと思う。
「・・・ラインハルト様?どうか、なさいました?」
「いや・・・何でもない・・・少し、頭痛がするだけだ。」
ここのところ、内・外の問題がひっきりなしにラインハルトを取り巻いていた。
彼の片腕であるジークフリード・キルヒアイス・・・そのキルヒアイスでも支えきれないような・・・ラインハルトの心の中にはある「空白」があった。風の吹き抜けていくような空白。
それを埋められるのは、誰だろうか?
彼の美しき姉・アンネローゼ・・・確かに、彼にとってかけがえのない女性である。
しかしまた、彼女でもない。
彼を満たし、温もりと、ひとときの癒しと安らぎを与える人。
それが、このだということに・・・彼自身もまだ気づいていない。



「お薬を・・・お持ちいたしましょうか?」
「いや、良い・・・最近は珍しいことではないのだ。すぐに治るだろう。」
「お食事は・・・召し上がりますか?」
「ああ・・・しかし、いつものテーブルではなく・・・と二人で、この部屋で食べたいのだが。」
「わ、私と・・・でございますか?!」
「嫌か?」
「いいえ、そんな!・・・でも。」
「一度・・・とゆっくり話がしたいと思っていた。」
「わかりました・・・では、こちらに運んで参ります。」
は一礼し、ラインハルトの部屋を出た。
ラインハルトは一人、溜息をつく。
(「どうしてだろうか・・・今、以外の誰にも会いたくない。」)



程なく、が今夜の料理をワゴンテーブルで運んで来た。
「ラインハルト様、ただいま支度をしますね。・・・ワインは、召し上がりますか?」
「ああ・・・良い、私が開けよう。」
「ラインハルト様!そんな・・・。」
「フロイライン、グラスを。」
「は・・・い・・・。」
この美しい方とグラスを合わせているのが、こんな一介のメイドだなんて。
は光栄に思う一方、心の中にみじめさが少し生まれてしまった。
それが彼女の顔に暗い影を落とす。
「どうした?フロイライン・・・。」
「いえ・・・。」
「私はの、笑った顔が好きだ。私の前で、あんな風に笑ってくれる女性は、今は・・・だけ・・・。」
「ラインハルト様・・・。」
ラインハルトの伏せられた睫毛が、の心を揺さぶる。
「あの・・・サラダ、お取りしますね。」
は大皿に綺麗に盛られたサラダを、ラインハルトの皿に取り分けようとした。
「いや・・・私がやろう。は、何か食べられないものは?」
「いえ、そんな!あの、私、何でも食べますわっ!・・・あ、そうじゃなくて・・・。」
ラインハルトはフッと笑った。
は本当にいろんな表情(かお)をする・・・。」
「す、すみません・・・。」
「いや・・・それならば。」
ラインハルトはの顎に手をかけ、唇を重ねた。・・・は、何が起こったのかわかっていないかのように、目も閉じずにラインハルトの口づけを受け入れていた。
「・・・えっ?!あ・・・。」
「フロイライン。キスのときは目を閉じなければ。」
かあっと頬を染めるの髪をそっと撫でると、ラインハルトはの皿に料理を取り分け始めた。
(「良いものなのだな・・・女性に、何かをしてやるというのは。」)



ラインハルトは、ゆっくりと気づきはじめていた。
自分を包み込んでくれるもの。
そして、包んであげたいひと。



「聞いているのか?」
「あ・・・はいっ!」
「何を?」
「あ・・・キスのときは・・・・。」
「そうだ。」



先程よりも、甘く、しっとりとした口づけ。
お互いの唇を、優しく包み込む・・・。









END



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初!ラインハルト様夢です・・・ラインハルト様を勝手に改造(?)してるかもしれない・・・
一緒にお食事を・・・という夢が大好きなもので、やってしまったのですが。
もっと精進します〜!




まきりん