二度目のキス
(「はあー、今日も終わった・・・でもまだ水曜か。」)
仕事を終えた私は、少し疲れ気味の足取りで職場を後にした。幸い、今まで降っていた雨は帰宅時間には止んでいた。
(「これからうっとうしい季節になるな・・・。」)
所々にできた水溜りを避けながら歩いているうちに、いつも前を通る、公園の中にある薔薇の花に気がついた。
真っ赤なその薔薇は水滴を含み、雨上がりの空にきらきらと光っている。
「あ・・・綺麗・・・。」
私はその時、遠い昔を思い出した。
「あれは・・・もう何年前なのかな・・・。」
(「あの人は・・・今どこにいるんだろう。」)
あの綺麗な人は。
最初は少し驚いたけど、本当は優しい人で。
自分の信念を貫いて・・・私の前からいなくなってしまった。
大事なものを守るために、強くなりたいんだと、いつも言っていた。
私はまだ・・・12歳の子供で、あの人を理解し、支えてあげるには幼すぎた。
あの人が消えてしまった。
私は中学生になって、高校生になって、化粧を覚えて、恋をして、失恋して。
あの時のあの人の年齢も、追い越した。
思わず身を屈め、小さな薔薇を折り取った。
(「あの人はこうして、薔薇を口にくわえてた・・・。」)
私は唇に赤い花弁を当てた。
どこにいるんだろう。あの人は。
それとも、少女の頃に見た、幻だったのだろうか。
サア・・・ッ、と甘い香がした。
「・・・覚えているかい?」
「あ・・・。」
夕闇の向こうから現れたのは、あの人・・・。
「ア・・・フロディーテ!」
「良かった・・・覚えていてくれて・・・。」
幻だと思った。
だって、私は大人になっているのに、あの人は全然変わっていないから。
「ど・・・うして、変わってないの?」
「私の時間は・・・止まっていたのさ。冥界へ行った時からね。」
そうだ。アフロディーテは冥界へ行ってしまったんだ・・・。
私が、中学生の時・・・。
「戻ってきたんだ・・・。やっとね。」
「アフロ・・・。」
「・・・綺麗になったね。あの時は、まだ子供だったのに・・・。」
アフロディーテは私の頬に手を当てた。
「ねえ・・・どうしてたの?今は、どこにいるの!」
涙が私の頬を伝った。アフロディーテがそっと抱き締めてくれる。
「昔と同じさ・・・。は変わらないね。あの時より背も高くなって、色っぽくなったけど・・・。」
「アフロ・・・?」
「泣き虫なのは一緒だね。」
少女だった私の、初めてのあの人とのキス。
触れるだけだった、少女のキス。
今度は、大人になった私と・・・。