Special Present
「ああ・・・困ったなあ。」
は溜息をついた。もうすぐ大好きな人の誕生日なのに、財布がからっぽなのだ。
「こんな事なら、ちゃんと計画を立てて、お金を貯めておけばよかったな。」
けれど、恋をするということは、女の子にとっても、お金がかかるものだ。新しい洋服、化粧品、・・・ランジェリーも。彼の目に少しでも可愛く、綺麗に映りたい一心で、女の子は自分を磨く。
「そのワンピース・・・可愛いね。よく似合うよ。」
南野秀一・・・本当の名は蔵馬・・・にとって、初めて出来た彼だった。
彼の、そんな言葉が嬉しくて。
教室で浮かぬ顔をしているに、螢子が声を掛けた。
「、どうしたの?蔵馬くんと喧嘩でもした?」
「ううん・・・あのね、もうすぐ秀一さんの誕生日なのに、プレゼントを買うお金がないの。」
「何だ?そんなの簡単じゃねーか!」
側から幽助が口を挟んだ。
「お前がプレゼントになればいいじゃんかよ。私を食べて・・・なんてなっ!」
ニヤニヤ笑う幽助に、螢子は肘鉄を食らわせた。
「は真剣なのっ!蔵馬くんはあんたじゃないんですからねっ!そんな冗談喜ばないのっ!」
「螢子ちゃん・・・それは、バレンタインでやっちゃったの。」
「えっ・・・。」
「ホントにやったのかよ・・・。」
暫く、沈黙が流れた。
「そ、それだったら、バイトしたら?」
「でも・・・もう日にちがないもん。こんなに急に見つからないよ。」
「大丈夫。あのね、私の友達がウェイトレスのバイトしてたんだけど、怪我しちゃって急に代わりの人探してたの。」
螢子の申し出に、は目を輝かせた。
「ほんと!?どこのお店?」
「ううん・・・『アンヌ・ミラーズ』っていうところなんだけど・・・。」
「アンヌ・ミラーズ・・・。」
アンヌ・ミラーズ。フリフリのエプロンとミニスカートの制服が男性の間で大人気という、話題の店だ。
「あの制服・・・着るんだよね・・・。」
「すっごくお給料いいんだってよ!」
その言葉に、は決心した。もう時間がないのだ。短期間である程度のお金が得られるのであれば、贅沢は言っていられない。
「私・・・やる!螢子ちゃん、その人紹介して!」
「マジかよ!お、俺見に行ってもいい?」
またまた螢子のビンタが飛ぶ。
「幽助!蔵馬くんにはぜっっったい!内緒だからね!」
程なく、は「アンヌ・ミラーズ」でアルバイトをすることになった。
「いらっしゃいませ・・・ご注文は?」
「今日は可愛い子が入ってるんだねえ・・・よく似合うよ、キミ。」
「あ・・・ありがとう・・・ございます。」
男性客の時折のセクハラ発言と、厭らしい目線にさらされながら、は泣きそうになることもあった。
(「秀一さんへのプレゼント、買うんだから!このくらい・・・。」)
「ん・・・・」
窓の外から、自分を見つめている黒ずくめの男と目が合った。
「あれは・・・飛影・・・?」
飛影は目をまん丸にしている。
(「まずいとこ・・・見られちゃったかな。」)
その日のバイトを終え、が店を出ると、いきなり上から人が降って来た。
「うわっ!ひ・・・飛影?!」
「お前・・・何故あんな格好をしている。」
「何故って・・・制服だからだよ。」
「制服?それは何だ。まあいい。蔵馬の奴は、お前にあんな格好をさせていて何も言わんのか。」
「秀一さんには内緒だよ・・・だって、もうすぐ秀一さんの誕生日なんだもん。プレゼント買わなきゃ。」
「誕生日・・・そうか。」
「内緒にしていてね。お願いだから。」
すがるように見つめるを、飛影はフッと笑って見返した。
「わかった。だがな・・・何か危険な目に遭いそうになったら、俺を呼ぶんだぞ。」
「あ・・・ありがとう、飛影!」
「フン。」
飛影もまた、に淡い思いを寄せる一人だった。
蔵馬に隠し事をするのは、にとってとても辛いことでもあった。
「ねえ・・・今日、新しくできたカフェに行ってみない?」
「ごめん、今日は予定があるの・・・家庭教師の先生が来てて。」
「家庭教師?勉強なら、俺が教えてあげるのに。」
「うん・・・嬉しいけど、もう決まっちゃったんだ。ごめんねっ!あ、もう行かなくちゃ。」
「あ・・・うん。」
(「、何か俺に隠してる?」)
何も知らない蔵馬は、不安を募らせていった。
のバイトも、もう最後の日だ。
(「よかったなあ・・・秀一さんにバレないままバイトが終われて。これでプレゼントが買えるっ・・・ん?」)
がテーブルを片付けていると、そこの客が忘れていったらしき携帯電話が置いてあった。
「忘れ物だ!さっきのお客さんに届けてあげなきゃ。」
は急いで店の外に走り出た。
(「あ・・・!」)
「なあ、南野も行ってみようぜ・・・あの店。そりゃもう、女の子の制服がたまんないんだぜ!」
「遠慮するよ。彼女に怒られるからね。」
「南野はいいよなあ・・・あっ、ここだ!『アンヌ・ミラーズ』!」
(「しゅ、秀一さん〜っ!!」)
あろうことか、学校帰りの蔵馬が歩いて来る。
(「え・・・?」)
はすぐに店に戻ろうとした。しかし、蔵馬がその姿を見逃すはずはなかった。
「秀一さん・・・。」
「待って、。」
は蔵馬に腕を掴まれた。
「・・・説明してくれる?」
「・・・。」
蔵馬の目が怖くて、は泣き出しそうになってしまった。
(「こんな・・・こんな格好を!」)
蔵馬に睨みつけられ、友人達はそそくさと逃げ帰ってしまった。
「わ、私はっ・・・。あっ。」
突如、上空から黒い影が舞い降りる。
「蔵馬。そう怒るな。はお前の誕生日に金が必要だったそうだぞ。」
「飛影っ!」
「・・・仕事に戻れ。蔵馬には俺が話す。」
「うん。ごめんね秀一さん!ありがとう・・・飛影。」
それから、バイト中ののスカートが何かの拍子で舞い上がりそうになるたびに、店をぶち壊そうとする蔵馬を、飛影は一日中止めつづけていた。
「あっ・・・あんな格好でっ!」
「おい、落ち着け蔵馬っ!!!妖狐になりかけているぞっ!」
「・・・お疲れ様。」
店を出ると、蔵馬が待っている。
「あれっ?秀一さん・・・待っててくれたの?」
「毎日、こんな時間に帰ってたの?どうして言わないの。何かあったらどうするの?」
「・・・ごめんなさい。」
うつむくを、蔵馬はぎゅっと抱き締めた。
「秀一さん?!」
「飛影に聞いた・・・何日、あんな格好をしてたの?」
「秀・・・。」
抱き締めた姿勢のまま、耳元で囁く。
「あんなに見せて、駄目でしょう?・・・オレのだ。」
はくらくらしながらも、必死に受け答えする。
「早く・・・お金が欲しくて・・・でも、反対されると思ったから・・・。」
「、ありがとう・・・気持ちはとっても嬉しいよ。」
蔵馬はの顎に手を掛けた。
「駄目・・・外・・・。」
「嫌だ。もう我慢できない。オレだけのを、あんなに沢山の男に・・・。」
蔵馬の中には、今までにない独占欲が生まれていた。
「んっ・・・。」
何かをぶつけるように、取りつかれたように、蔵馬はの唇を貪った。
「秀一さん・・・怒ってる?」
「怒ってないよ?が俺の為に頑張ってくれてたんだもの。でももう、あんな格好をしないで・・・何でも、オレに話してね?」」
の髪を撫でながら、蔵馬は静かに言った。
「うん・・・。」
「だけど、お願いがあるんだ・・・いいかな?あの制服、まだ持ってる?」
「うん、今日洗濯するから・・・えっ?」
「可愛い・・・可愛いなあ・・・。ねえ、もっとこっちへおいでよv膝に乗ってごらん?」
「しゅ、秀一さん・・・///。」
その夜・・・蔵馬はアンヌ・ミラーズのフリフリ制服姿のを一人占めしたのだった・・・。
END