銀色のシンデレラ





「さあ・・・どうぞ。」
「あっ///ええとお・・・。」


今日は大好きなKAMIJOさんの誕生日パーティ・・・といっても、ファンの為のイベントだけど。
珍しく運良く、ジャンケン大会で勝ち上がってしまった私。
最近、悪いこと続きで、落ち込み気味の私だったけど、今日だけは頑張って、わざわざ遠い東京・新宿まで来たんだった。この日のために、無理を言って仕事もお休みした。都合がつかず、一緒に行ってくれるという人がいないから、一人で参加した。


だけど、まさかこんな事になるなんて・・・。


ファンの人達の視線が痛い。睨まれてはいないけど、「それ以上のことをやったら許さない」みたいなオーラが伝わってくる。私・・・無事に帰れることができるだろうか?


「どうしたの?ケーキは嫌い?」
「いえ・・・好き・・・ですけど・・・。」
ジャンケン大会の景品は・・・KAMIJOさんが指でケーキを舐めさせてくれる、ということ。
だけど、こんな大人数の前でそんなことはとても・・・!
「恥ずかしいのかな?」
「・・・。」
「わかったよ。どうしようかな・・・じゃあ、このケーキはお持ち帰りね。僕のサインを入れてあげる・・・名前は?」」
「あ・・・私は、・・・いいのですか?!ありがとう・・・ございます・・・。」
スタッフの人が小さな箱を持ってきて、そのケーキを切り分け、中に入れる。KAMIJOさんは小さな色紙にサラサラッと字を書いて箱に入れると、微笑んで私にそれを渡した。・・・握手をしてくれた。
ああ、男の人なんだな・・・興奮していたけど、瞬間、そんなことを思ってしまった。
「ありがとうございますっ。」
「転ばないようにね。」
私はケーキの箱を抱え、自分の席へ戻った。
周りの女の子達が小さな声で「もったいな〜い!」なんて言ってる。あんなオーラ出してたくせに。あんた達がいなかったら、いなかったら!
・・・私、後できっと後悔するんだろうな。
今日泊まるホテルで、一人になったら・・・泣いてしまうだろうな。
あんなこと、一生あるかないかの幸運なのに。だけど私っていつもそうだ。すごいチャンスが目の前に転がってきても、手を伸ばす勇気が無い。今だってそうだ。
イベントは、長い時間続いた・・・だけど、楽しかったけど、私の心は中途半端なままだった。


イベントが終わった。人ごみの中でもケーキの箱が押しつぶされないように、そっと抱えて私は一人ホテルへ向かった。チェックインを済ませ、部屋に向かう。
「ケーキ・・・食べようかな。」
一人で食べるのは寂しかったけど、せっかくの記念のケーキ、今日のうちに食べた方が美味しいに決まっている。私は、部屋に備え付けてあったポットでお湯を沸かし、一人分のお茶を入れた。
「美味しそうだなあ・・・やっぱり、良かったな。・・・ん?」
KAMIJOさんがあの時入れてくれた小さな紙・・・サインの横に、小さな文字で・・・。


「SILVER MOON」


「SILVER MOONて・・・どっかで聞いたような?」
と、ホテルのパンフレットが目についた。
「あった・・・!これ?」
SILVER MOONは、このホテルの最上階にあるバーの名前だった。
「まさか?でも・・・。」
何かに引き寄せられるように、私はお化粧を直すと、自分の部屋を後にした。


「いらっしゃいませ。」
私はお店に足を踏み入れた。
「あの・・・。」
・・・様ですね?」
支配人さんみたいな人は、私の名前を知っていた。
「えっ?はい・・・。」
「お席を用意しております。窓際のお席へどうぞ。」
案内されるままに、店の奥の席に進む・・・そこには。


「かっ・・・かみじょーさんっ!?嘘!」
あの人が・・・ゆっくりと振り向く。
「よかった・・・来てくれて・・・ちゃん。」
私を見て、優しく微笑む。
「ごめんね・・・君に、皆の前であんなことをさせようとして・・・。」
「あ・・・。」
言葉が出ない。
「そのお詫びをしたくてね。・・・もう、誰もいないから。」
「そんな!すごい!美味しかったです!って、まだ食べてないけど・・・。」
KAMIJOさんはクスクスと笑う。私はますます赤面した。
私に、カクテルが運ばれて来た。ほんのりと甘い、薔薇の香りのカクテル。
「これからは・・・大人の時間。」


このカクテル・・・媚薬でも入っていたの?
いつの間にか、KAMIJOさんに触れられている。
「・・・可愛いね。」
私、今、どんな顔をしているの?


二人を見ているのは、窓の外の白銀の月・・・だけ。




END