甘えたい夜
                                                               


「アフロ?お仕事終わった?」
・・・ごめんね。まだ終わらないんだ・・・こんなはずじゃなかったのだけれど。」
聖域に設けられた図書室でアフロディーテが調査書をまとめていると、がひょこっと顔を出した。
「こんな時間なのに・・・急ぎのお仕事なの?」
既に夜の九時を回っている。
「ああ・・・過去に失われた聖衣のことでね。その聖衣を纏うべき聖闘士が現れたという星の動きがあったらしいんだ。・・・ごめんね。わかってるよ。明日は・・・。」
「いいの。気にしないで。私、そういうのあまり気にしないんだ。」
明日は、の誕生日。
、もう遅いから送っていくよ。・・・これ以上待たせたら申し訳ないから。」
「ん・・・アフロ、夕ご飯食べたの?」
「いや、まだ食べてない。こそ、食べてないんだろ?」
「アフロ、ちょっと待っててね。私、何か作ってくるから。お仕事続けてて?」
そう言うと、はいそいそと図書室の横の宿直室にある小さなキッチンに向かった。
アフロディーテはの帰宅時間を気にしたが、ふっと微笑んで又仕事に没頭した。

「お待たせ・・・アフロ。出来ました。」
暫くするとがサンドイッチとおにぎりを運んできた。
「あんまり物が無かったから・・・こんなんで、いいかな?」
「ありがとう。ごめんね。」
「いいの。謝らないで。・・・お茶、淹れてくるね?」
は長時間の作業で少しやつれ気味だったアフロディーテの頬を片手で撫でた。アフロディーテがその指を捕らえる。
「お茶は私が入れるから。」
「そっか・・・お茶はアフロが淹れた方が美味しいもんね。うーん、じゃ、ここで待ってよかな?」
「駄目だよ。」
「え??」
アフロディーテはの肩に顔をもたせかけた。
「・・・どうしたの?アフロ?・・・髪、くすぐったいよ。」
「一緒に淹れよう。一緒にキッチンに来てよ。」
「なに?どうしたの?」

と・・・今、ちょっとでも離れたくないんだ・・・。」

は一瞬驚いた後、顔をかあっと赤くした。
普段、二人だけのときでもアフロディーテは滅多にこんな行動はしない。むしろこういうことをするのはいつも自分の方だった。
「アフロ・・・?疲れちゃった?」
はいつも自分がアフロディーテにしてもらうように、自分より長い彼の髪を撫でた。
「私も・・・甘えたいんだ。嫌かい?」
アフロディーテはそう言ってに頬擦りをした。
「ふふ・・・アフロ、ペルシャ猫みたい。」
もっともっと、弱みを見せてほしい。美しい貴方の、醜い部分も全て。
はそう心でつぶやいた。

食事を終え、はアフロディーテの邪魔をしないように、そっと後片付けをした。
「アフロ、待ってていい?私、宿直室で本読んでるから。」
「ああ・・・だけど、ここにいて欲しいな。12時・・・君の誕生日には、終わらせるから。」
「うん。じゃ、ここにいる・・・。」

が少し離れた場所で本を読んでいると、小さな寝息が聞こえてきた。
「アフロ・・・寝ちゃったの?」
アフロディーテは机に顔を伏せ、寝息に合わせて肩を上下させていた。は宿直室から毛布を持ってくると、そっとその肩に掛けた。
・・・プレゼント、が・・・ある、ん・・・。」
(「寝言言ってる・・・。」)
はアフロディーテの隣に腰掛けると、その毛布を自分も掛けた。
「私も寝ちゃおっと。」

かくして・・・の誕生日は、アフロディーテと図書室にお泊り、ということになってしまったのだった・・・。