ガラスの靴



!まだ掃除は終わっておらぬのか?」
「はい・・・パンドラお母様。ただいますぐに・・・。」

私を可愛がってくださったお父様は亡くなってしまい、私は継母と、その連れ子である二人のお姉様と一緒に暮らしている。でも、私は使用人同然にこき使われていた。
「ヒルダお姉様!ったら私のお部屋の掃除をとてもいい加減にやるのよ!」
「まあ!フレアのお部屋もなの?何て怠け者なのかしら。役に立たない子だわね。」
私はこのままずっとここで暮らすのかな。
でも、他に身寄りなんてない。


ある日、家にお城から招待状が届いた。この国の王子様が花嫁を選ぶために舞踏会が行なわれるという。
ヒルダお姉様もフレアお姉様も、支度に大騒ぎだ。
「王子様はとても美しいお方ですって・・・私がお妃になるのだわ。」
「まあ、フレアはまだ子供だわ。ここはやはり姉の私・・・。」
でも私には縁の無いお話。
、家中の掃除と洗濯をしておくのだ。よいな?・・・ラダマンティス、よく見張っておくのだ。」
「かしこまりました、パンドラ様。」
執事のラダマンティスはじろりと私を睨んだ。





お姉様達が美しく着飾って出掛けた後、私は泣きながら床を拭いていた。
「王子様・・・どんな方なのかな?舞踏会か・・・行ってみたいなあ・・・。」
「ふむ。行きたいのかね。」
「!!!!」
「何をびっくりしているのだね。私が行かせてやろう。光栄に思いたまえ。」
「・・・どこから入って来たんです??・・・あっ!貴方は魔法使いですね?」
「何をいう。このシャカは神に最も・・・いや、それどころではない。早く舞踏会とやらに行くのだ。」
「でも、ドレスが・・・。」
「そんなものこの私が出してやろう・・・オーーーーーム!」
「こ、これは!」
「ふふ・・・漫画を見て研究したのだ。どうだ?」
その人が呪文(?)を唱えると、私はマリーアントワネットのようなドレスを着ていた。
「ちょっと頭が重いですが・・・ステキです!あっでも、馬車が・・・。」
「ふむ。台所でキュウリを探してきたまえ。」
「キュウリ・・・?カボチャじゃなくて?」
「何をいう。昔からご先祖様が乗ってくるのはキュウリの馬と決まっている。ナスの牛は遅いからな。」
「それって・・・(汗)。」
「それからネズミを探してきたまえ。御者が必要だ。」
「はい・・・ネズミですね。」
言われた通り台所に行ったけど、キュウリはあってもネズミはみつからない。
「・・・これじゃダメですか?」
代わりに夕食の材料の残りのカニを持ってきた。
「・・・蟹・・・なんだか嫌な予感がするが、まあよい。オーーーーム!」





「すごーい!蟹が人間になった!」
「少々目つきの悪い御者だが、仕方あるまい。」
「ああん?誰が目つきが悪いだあ?」
「お、お願いします!お城まで連れてってください!」
「おう、任せとけ!」
何だか不安だけど・・・。
「ありがとお!魔法使いのお兄さん!」
「うむ・・・12時になると戻ってしまう。それまでに見事虜にするのだぞ!」
「よし、行くぞ!」
蟹の御者さんはとんでもないスピードで走り始めた。
「うわああーっ!ちょっと!さっき人とぶつかったような・・・。」
「まあ気にするな!舌かまないように黙ってろ!どけどけー!雑魚どもー!!」



「はあ、はあ・・・。」
「おう、着いたぜ!姫さんよ。」
「ここが・・・お城・・・。」
本当に自分なんかが入っていっていいのか躊躇していると、小さな男の子が走ってきた。
「お姉ちゃんも早く!もう、全然決まらなくってシオン王も困ってるんだよ!」
「・・・あ、あのう・・・。」
「おいら貴鬼ってんだ。ムウ大臣様にお仕えしてるんだぜ!」
私は男の子に手をひかれ、大広間に入っていった。




「ムウよ、まだ王子の気に入る娘はおらんか?」
「はあ・・・そのようで。」
「全く困った王子じゃ!」
国中の美しい令嬢が集められたが、王子は全くつまらなそうにバルコニーで月を眺めていた。
(「誰も彼も・・・王妃という位が欲しいのが見え見えだ・・・虚しい・・・。」)



「お姉ちゃん、よかったね。まだ決まってないみたいだよ?」
「貴鬼・・・王子様は?」
「あの人だよ。アフロディーテ王子様。」
「うわ・・・。」
すごい。あんな人がこの世にいるなんて・・・。お人形みたい・・・。
じっと見ていると、王子様がこちらを見た。
「可愛い人・・・踊っていただけますか?」
「王子様・・・。ごめんなさい。踊ったことなんてないのです。ほら、あそこにいる私のお母様に見つかったら・・・怒られますから。」
私はお母様達に気付き、その場を逃げ出そうとした。すっと腕を掴まれる。
「あ・・・。」
「・・・どうして、怒られるの?それじゃ、誰もいないところに行こうか。」
「えっ?」
「・・・貴鬼、頼むよ。」
「うん!わかったよアフロディーテ様!」
そのままアフロディーテ王子様は私を抱き上げた。




「・・・ここは?」
「貴鬼にテレポートさせたよ。ここなら大丈夫・・・薔薇が綺麗だろう?昼間はもっと綺麗に見えるよ。」
気づくと、私達は中庭の薔薇園にいた。
王子様は、私の手をとらえる。
「・・・この手は・・・。」
私の手は、家事に疲れてささくれだらけだった。その手をじっと見られて、恥ずかしさに消えてしまいたくなった。
「・・・。」
「美しい手だ。」
その時、12時を告げる鐘の音が響く。
「あ・・・12時・・・帰らなければ!」
「待ってくれ!君の名前を!」
私は王子様を残し、一心に走り出した。




「ど、どうしたんだ?待ってくれ!」
王子様はどんどん追いついてくる。
なんて足が速いんだろう・・・私は追いつかれてしまった。

ドレスは見る見るうちに、いつものボロ服に戻った。
ガラスの靴も消え、私は裸足になった。
みっともなくて、恥ずかしくて、その場に泣き崩れてしまった。




「・・・君の名前は?」
・・・。」
「ずっと探していた。君のような人を。」
王子様は私の肩をそっと抱いた。
「このアフロディーテの妻になる人は、。君しかいない。」
「王子様・・・。」
いきなりのプロポーズに、魔法がまだ続いているんじゃないかと思ったくらいだった。
小さい時に読んだお話に、ちょっと似ていたけれど。
はかなく夢のようなガラスの靴。



ガラスの靴はいらない。
きっと、運命だったのだから。







いつかはやって見たかった、プリンス・アフロディーテです!
私の趣味丸出しですね(?)シャカとデスマスクには申し訳ないことをしました(笑)
とても楽しい企画です。ありがとうございました!

まきりん