フロント回りから怪音が

1998年正月、名義変更も無事済ませ、車検証の名前も自分の名前になった。正真正銘のオーナーである。嬉しかった。修理工場に勤務する友人の力を借りすんなりいった。最後にナンバーを取り付け、確認をしてもらい "兄ちゃん、ええ車に乗っとるなあ〜" と声を掛けてもらった。"そお!?" と何となく偉そうにしている訳では無いが、自分がちょっとだけ偉くなった様な気がした。まったくいい気なもんだ。
晴れて、あちこちにドライブする様になり、満喫気分を味わうのもわずか、フロント回りから妙な音が出てきた。カタカタカタ…。何だろう? メーターからなのかスピードに比例する音。気になる。出たり出なかったり。嫌な予感が少しずつ増幅する。細かい事を気にしていては、Ferrariは…。でも気になる。ある日の晩、仕事の関係の方がやってきて乗せて欲しいと言う。断るのもケチ臭いし、不安は有る物の近くの有料道路へと繰り出した。調子良いではないか。その調子 その調子と言い聞かせながら、料金所への下り道、突然左前輪あたりで、カタカタカタ… カチャ カチャ カチャ… ガダガチャ バンバンバン…"ありゃ〜!! ついに来た〜!!!" 顔面蒼白 帰れるだろうかと真っ先に思った。隣の知人も心配そうに僕を見ている。"あれ〜、また壊れたかな〜" 内心とは裏腹な精一杯のやせ我慢で余裕のある所を見せた。Ferrari乗りは、どんな時も涼しげな表情が似合うと信じているのだ。動じてはいけない。おまけに "壊れるのがFerrariですから" と「おおみえ」をきってしまった。なんとか帰宅して、その日はショックで言葉も無く、何も喉を通らなかった。早くも洗礼なのか。
数日間、328を見るのが怖かった。「開けて吃驚○箱」になっていたら、どうしよう。でも見ない訳にはいかない。メーターは電気式だと教わった。やはり足回りだろう。フロントをジャッキ・アップして点検していく。タイヤを断腸の思いで外す、その向こうには…。まったく普通だった!? あれっ、あの音はなんだったのだろう。道路工事もしていなかったし、たしかに車に振動が出ていた。おかしい。ディスク・ローターを回す。異常無し。左右確認する。解らない。数時間座り込んで考える。ローターで遊んでいるうちに、"カチッ カチッ カチッ" と音がした。これだ。この音だ。 そうか、パッドの遊びだ。たしかに社外品のローターとパッドを生意気にも装着しているので有り得る話だ。
さっそく外しにかかった。が、合うサイズのヘキサゴンが無い。キャリパーだけ、純正を使っているのだが、なんとノギスで測ると「7ミリ」らしい。普通の規格では無い。近くの工具屋にも問い合わせるが "あいにく無いですね〜。そんな規格はカタログに載ってないな〜"だった。はあ〜。数日後にOn Line Ferraristaのブランチがあるのに…。行けなくなってしまう…。しょうがない、8ミリを削り落とそう。「キコキコ……」手が痛い。でもFerrari職人の登竜門はヤスリがけで始まるらしい。気持ちだけはスクーデリアであった。嬉しいような、悲しいような。なんとも言えない実に孤独な時間だった。
"おお〜、やってますね〜" 長年の友の声。もう一人のゲストもいた。手にしているのは、何やら道具らしい。なんと「Snap On」のヘキサゴン・セット!ああ、この人は前に会った事のある「HONDA・NSX教」の方だ。おお、神様! でも僕のこの手の痛みは…。もっと早く来てほしかった。悲しくて涙が出そうだった。そこからは、速攻だった。原因はパッドの裏の爪が歪んでいた。熱で曲がったのだろうか? しかし、もっと早く気づくべきだった。世話の焼ける車だが、また一つ好きになっていた。自分の車はなるべく触わってやりたい。生涯Ferrariと暮らしたいと思っているのだから。直った時の笑顔はやはり良い物だったらしい。教訓。道具は大事だ。ああ〜それにしても手が痛い。

フロント回りから怪音が 完

TO 328日記 もくじ