+ごろごろ+ 「あれ、珍しい。ベッドで本読んでる」 扉を開けて目に入って来た光景は、ベッドの上でごろごろと寝転んで本を読む怠惰な感じのジェイドだった。いつもなら机に向かっていたり、椅子に足を組んで座っていたりと、そんな感じに本を読んでいるのに。 部屋に入りルークが扉を閉めてベッドに歩み寄ると、ジェイドは胸の上に本を置いて傍に来たルークを見上げた。 「私だってたまにはだらだらしたい時ぐらいありますよ。いつも真面目でいるのは疲れますからね〜」 「………」 何処が『いつも』真面目なんだろうか。 思わず半目で見遣ってしまうルーク。けれどもそのままじっと彼の視線に見上げられ、思わず何も言い返せなくなってしまった。 その視線はうっとりと甘く、ただルークを見詰めるだけ。けれどもそれが何よりも雄弁に物語っていて。 「ルーク」 「………っ…!!」 呼ばれて、首の後ろがぞわぞわした。思わずそこを押さえて改めて見れば、いつのまにか自分に向かって手が差し伸ばされている。そしてその向こうにある、変わらない微笑。 それの意味する事は…。 「〜〜〜〜っ、最初からそう言えばいいのに…!」 「言わなくても分かるのが恋人同士ってものでしょう?」 かーっと熱くなる頬を自覚し、ルークが頬を押さえて唸る。けれどもジェイドはしれっとそう言って、己の上から本を退かし、改めてルークに向けて手を伸ばす。 「ルーク」 「…っ…」 もう一度甘く呼ばれて。 ルークは更に赤く熱くなる頬を自覚しながら、そっとベッドに膝をかけた。ぎし、と音を立ててルークの体重を受け止めたスプリングの音が妙に気恥ずかしい。 それでも跨ぐようにして腕を伸ばしたままのジェイドの上に覆い被されば、伸ばされた腕が首に絡んできて、その体の上に乗せられてしまう。するとぺたりと胸と胸を密着させる体勢になり、ルークはやたらにこにことしているジェイドの顔をその上から見た。 「な、何だよ…妙に機嫌良さそうにして」 少し覗き込むようにしてみれば、首に回っていた手が髪を撫で始める。くせで跳ねた毛を指に絡めて弄る手つきが、少しこそばゆくて思わず肩を竦めた。 するとまるでそのタイミングを見計らったように。 「いえ…ただこうしているだけでも幸せだと思いまして」 「!」 そんな顔で、そんな事言って。 (ズルイ大人だ…!) 「おや」 これ以上赤くなった顔を見られたくなくて、ルークはジェイドの肩口に顔を埋めた。するときゅっと頭を自分の方に押さえるように抱かれ、ジェイドの唇がルークの耳に触れる。 そして吐息のような低い声で、 「―――ルークは、幸せですか?」 「!?」 耳の中に囁かれて。 ぎゅ、とジェイドのシャツを皺が深く刻まれるほど強く掴んで、その衝動を堪える。勿論それに気付いているジェイドは、ルークの耳に唇を寄せたまま、微かに笑うような吐息を吹きかけてきた。 「ルーク?」 あまつさえ、わざとらしく名前を呼んで。 「…そ、そんな事わかんねぇよ…」 「そうですか? 残念ですねぇ」 そうまでされると、逆に照れて口は堅くなってしまう。その事をジェイドは分かっているのだろうか。あっさりとそう言い放って、肩口に埋まったままのルークの髪をまた、指先で弄りだす。 「………」 だからルークはするりと肩口に埋めた顔を擦り付けて、彼の襟足から匂う香水の香りにくん、と鼻を鳴らした。 ―――ジェイドの匂いがルークは好きだ。こうやってくっついていると体温が混じって、二人の境目がなくなっていくような気がするのも。ただ髪を弄られるのも。 二人の間に柔らかく、穏やかな空気が満ちる。部屋は広いとは言えないが、そんな中で、ただ一つのベッドの上で重なり合って。 「ジェイド」 「はい?」 呼べば、すぐに返ってくる。 ルークはジェイドの顔の両脇に手を置いて体を支えると、少しだけ上半身を起こしてその秀麗な顔を見下ろした。 「ルーク?」 「……」 不思議そうに見上げる顔に、顔を寄せる。支えるようにジェイドの手がルークの脇腹に触れたのが、少しくすぐったかった。 「…ん」 ちゅ、と顎にキスを落として、更に頬にも。目蓋にもキスがしたかったが、眼鏡が邪魔だった。仕方なく鼻のてっぺんにキスをして、眉間にも唇を押し当てる。 「…唇にキスはくれないのですか?」 ちゅう、と最後に唇ぎりぎりのところにキスをすれば、くすりと笑ったジェイドが見上げて聞く。邪魔だった眼鏡の奥の赤い目が、意地悪そうに微笑んでいた。 「したら、調子に乗って変なことするだろ…」 「変なこと、とは心外ですねぇ。けれど、こんなにも幸せですから、そんな事されたら、正直どうなってしまうか分かりませんけど」 「っ…やっぱり…変なことするんじゃん」 顎を持ち上げるように上を向いたジェイドが、ちゅ、と真上にあったルークの顎にキスをする。そして返す動作でぺろりと下唇を舐められた。 だからルークは仕返しのように鼻に噛み付く。勿論本気なんかじゃない。軽く歯を立てて、咎めるように。 「まるで動物みたいですね」 するとまったく堪えた風もなく、くすくすとジェイドが声を立てて笑う。そして不意にルークの視界が揺れた。 「躾のなっていない子には、お仕置きが必要ですか?」 「!」 それはあっという間の出来事。気が付けば視界が反転し、今度はジェイドがルークの上に覆い被さっている。 見上げれば、頭上からさらさらと蜂蜜色の髪が零れてきて、その中心で赤い目が自分を見下ろしていた。 「―――ほら、やっぱり幸せですね」 「…っ、何が、だよ」 にこり、と笑った赤い目が降りてきて、啄ばむようにルークの唇に触れる。けれどもそれだけでは足らないのか、ジェイドは先ほどルークがしたようにキスの雨を降らせ、ルークが眼鏡が邪魔で出来なかった目蓋にも唇を押し当て、そして幸せそうな声で、呟いた。 「だってただ寝転がっていただけでこんな結末にありつけるだなんて、幸せ以外の何物でもない」 「………馬鹿、だ」 それがあまりにも感慨深いような響きだったから、思わず呆れた溜息をついた。けれども溜息をついて、上に乗り上げるジェイドの背中に腕を回す。 そうしてルークのさせたいようにするジェイドの襟にまたも擦り付いて、くんくん、と匂いを嗅いだ。 「―――幸せ、ですねぇ」 するとジェイドがもう一度呟く。 「―――うん」 観念したルークが頷くのに、そう時間はかからなかった。
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たまにはごろごろいちゃいちゃしたっていいじゃない。
ってたまにはじゃない気もしますけどね…!
この後スキンシップは過剰になっていって、
結局ルークの考えていた通りになってしまうんですよ。
それもまた、幸せ。
ごろごろもだもだ