+俺とお前とこいつとあいつ+

 

 

 

 

 

「ルークはほんっとジェイドがお気に入りだな」

「うん、一番好きだ」

そんな苦笑混じりのピオニーの声に、ルークはうんと大きく頷いてそう返す。

今日も今日とてグランコクマ城、ピオニーの私室。話しているのはもちろん、今ここにはいない人間の方のジェイドの事ではない。

ピオニーの飼っている可愛い可愛いブウサギ、のジェイドの話であった。

「だってジェイドが一番なつっこいんだ。俺が来ると真っ先に駆け寄ってくるし」

今もぶうぶうと鳴きながらルークの傍を離れないジェイドの短い毛並みを撫でながら、ルークは嬉しそうに言う。

動物なんて屋敷にいる時は飼った事がないし、ミュウは今やルークにとってペット以上の存在だ。こうして動物に触った事などほとんどないので、こうしてジェイドが自分から寄って来てくれるのは嬉しかった。

そんなほほえましい光景を、頬杖を突きながら眺めるピオニーは一つ唸って。

「おっかしーなあ。ジェイドはこの中でも一番真面目な性格でな。知らない人間からは餌をもらわないし、愛想はいいが深入りはしないという…ある意味とっても誰かさん似なんだ」

「ふーん…でも俺にはすっごい懐いてますけど」

「だからおっかしーんだよなぁ」

もう一度繰り返して、ピオニーは近くにいたブウサギ…たしかあれはルークだ…を抱き上げる。

「ちなみに一度人なつこくて、誰の手からでも餌をもらっちまうのがルークだな」

「う……」

ピオニーの腕に抱かれて機嫌良さそうに、ルークは短い尾を左右に振っている。確かにこの中にいて、ルークがそういう事に頓着せず、一番呑気そうだった。

「別にお前の事じゃないんだからそんな顔しなくてもいいだろう」

「でもやっぱ…ジェイドが嫌がってる理由がなんとなく分かった…」

ピオニーに『可愛い俺のジェイド』とブウサギのジェイドが言われるたびに、人間のジェイドは癒そうな顔をして文句を言っていた。そこまで露骨に嫌な訳ではないが、複雑な心境は拭えない。

「そう言えば陛下はどいつが一番お気に入りなんです? やっぱネフリー?」

「んー? そうだなあ」

問えば、ピオニーは抱き上げていたルークを下ろし、傍にいた…あれは確かサフィール…を捕まえる。

「俺にとってはどいつも可愛い奴だからなあ。今更比べられないな。ルークはやっぱりジェイドか? ん?」

「な! あ! …いや、う〜」

こちらから尋ねたつもりが逆に尋ね返され、ルークは言葉に詰まる。しかもピオニーはニヤニヤとしていて、ルークがそうして困るのを分かっていて言ったのだ。

案の定ルークは赤い顔をして唸ってしまうのだが。隣を見遣れば、ジェイドの丸いつぶらな瞳がルークを見上げていて。

「でもジェイドが一番懐いてるのは確かだし…って、ジェイド? うわ、わ…!」

「おいおい」

じっと見つめ返せば急にジェイドが飛び掛かって来て、ルークはそれを受け止めたままひっくり返ってしまう。

「おい、大丈夫かルーク?」

「いつつ…ちょっと頭打った…って、ジェイド重い〜」

何やってるんだとピオニーが腰を上げ、上から覗き込んでくる。倒れたショックで頭を軽く打ったが、そう痛む事はない。むしろ愛玩用とは言え、愛され育った立派な体格のジェイドにのしかかられるとルークは起き上がれなく、床に伸びたままだ。

 その様子を見てピオニーは、声を立てて笑う。

「ジェイドはよっぽど人間のルークが好きなんだなー。ルークは何か『ジェイド』に好かれるフェロモンでも出してるのか?」

「何なんですかフェロモンって…それよりジェイド退かして下さい陛下…ん?」

笑うばかりで一向に手を貸してくれないピオニーに助けを求めると、不意にぐいぐいと何かにズボンを引っ張られる。ジェイドに押し潰されないように支えながら見やると、そこには……。

「ルーク?」

ルークのズボンをくわえて引っ張っていたのは確かにルークだ。

「な、何だ?」

「あー、言い忘れてたがルークはジェイドがお気に入りでな」

「え」

「放し飼いにしてある時は普段は大抵、ぴったりくっついてるんだ」

上からルークに飛び付いたままのジェイドを抱き上げ、ピオニーが笑う。

「あんまりジェイドがお前にくっついてるもんだから、嫉妬でもしたか? 本物に似て可愛い奴め。まあ…相手が同じジェイドってのがひっかかるが…」

抱き上げたジェイドを下ろすとブウサギのルークも離れ、ぶひぶひ言いながらジェイドの傍に擦り寄っていった。それは自分の事ではない、あくまでブウサギのルークとジェイドの事なのに。

ピオニーに言われ、ブウサギたちの仲睦まじい様子を見せ付けられると、ルークも自分の事のように恥ずかしくなって頬が赤く熱くなるのを自覚する。

するとそこに―――。

 

「……ルークもそれくらい素直だったら『もっと』可愛いげがあるんですけどねぇ」

 

「!」

まるで意識していなかった扉が開き、会議を終えた人間の方のジェイドがノックもせずに入って来て言う。思わずびくりとして振り返るルークの代わりにピオニーは、

「何を言う。今のルークだって充分可愛いぞ」

「わわ」

また変に言い返してブウサギでなく、人間のルークを抱き締めた。するとひや、と一瞬部屋の空気が冷えた…ような気がしてルークは身震いをする。

「それは大いに同意しますよ、陛下」

―――その冷気の発生源は…。

「―――が、それはそれ、これはこれ。陛下ももうそろそろご公務のお時間ですから、我々はお暇させて頂きますよ。そして人間の方のルークは返して頂きます」

にっこり、とまるで言葉で表現できそうなほど薄ら寒い笑みを浮かべ、ジェイドがピオニーの腕の中からひょいっとルークを抱き上げる。

「ジェイド」

そしてすとんと隣に立たされ見上げて呼ぶと、今度はルークにだけ向ける温かな笑みを浮かべて。

「ぶーぶー」

「―――一国の王ともあろうお方が家畜のような不満声を上げないでください」

ピオニーのブーイングに、その顔がすっと元のジェイドのそれに戻る。

そしてジェイドは何事もなかったようにルークの服の埃を払うと、ブウサギのジェイドに押し倒されて乱れた髪を撫でつけて整え、にこりと微笑んだ。

「さ、長らくお待たせしましたね。帰りましょうか」

「う、うん」

「一応―――陛下もルークの事、ありがとうございました」

「おう、気をつけてな。また遊びに来いよ、ルーク」

「は、はい」

急かすようにジェイドに背中を押され、ピオニーの私室を後にしようと扉に向かう。

だがその二人の背中にふと、ピオニーが扉の閉まり際に言い放った。

 

「―――人間の場合はジェイドのが嫉妬深いよな、やっぱ」








ジェイドのルークに対する感情はブウサギ並み。
単純と言うか、分かりやすいというか(意味同じだ)
そしてそれを眺めるのも好きな陛下。
幼馴染がどんどん人間臭くなっていくのを快く思いつつ、
こいつって面白ぇ〜とか思ってたりします。

こんなにもブウサギ出したの初めて(笑)