+それは甘く、密やかに+

 

 

 

 

 

 それは甘くて甘くて蕩けそうな、砂糖菓子のようにふわふわとしていて、それでもあっと言う間に口の中で熱に溶けるような、甘美な感覚。離したくはない、離れたくない、求めれば求めるだけ、その感情は膨れ上がる。

 

 

「ん、ふ…ぁ…」

 ちゅ、と唾液が鳴るように舌を吸えば、鼻に掛かったような甘い吐息と声が抜ける。その声が聞きたくて何度も角度を変えては与えれば、幼いが故の貪欲さでそれを彼は受け止めていた。

 椅子に腰を下ろした膝の上にルークを乗せ、ランタンの明かりで秘めやかな行為に耽る。幼い彼に甘い睦言は理解出来ないから、示すのは態度で。

 抱き締めることはせずに手だけ握って、唯一交わすのは互いの名前のみ。

「…ルーク…」

「…ぁ、ジェイ、ド…ぉ」

吐息の最中に名を呼べば、キスに痺れて若干甘えたような声音で呼び返される。それが酷く耳に心地よくて、じわりとそこから彼の愛情が染み込んでくるようだ。

「…あ…」

そんな上手に呼べた事の褒美に、軽く上唇を噛んでやれば腿の上で握った手がびくりと震える。

「ん、んん…」

勿論それだけでは収まらずにその指に指を絡め、指の腹や股を優しく指先でくすぐるように撫でるとその感触が焦れったいのか、ぎゅっと手を握り返されて塞がれる。けれどもその握り返された手を更にもう片方の手の平で包んで、何とか息を継ごうとしている唇を上体ごと迫って追い掛けた。

「や、んんっ…ふぁ、ぅ…」

「…ん…」

支えられていない背では、膝の腕逃げるのにも限度がある。少しからだを後ろにそらせた状態で動けなくなったルークの戦慄く唇を食み、舌で舐ぶって歯列を辿れば、それでも僅かにルークが身を引こうとする。

それでもこちらは更に押し付けるように追い掛けて―――…。

「ァ…ジェイ、…ド…ジェイド…!」

包み込んだそこから硬く握っていた手が不意にするりと抜け出し、こちらの胸に腕を突っぱねて弱々しく押し戻す。だが散々こちらが貪った為にルークは酸欠らしく、まったくその腕に力は篭っていない。

それでもその体が膝の上からずり落ちてしまいそうなのに笑い、軽く抱き締めるようにして支えながら、キスをやめる。

「は…ァ…あ…」

解放されてこちらの胸に手を当てたまま肩に顔を埋めるルークは、それでもキスの余韻甘く熱い吐息をこちらの耳に落とす。その恐らく無意識の色香にこちらの笑みは深まるというのに、それにけして気付かない彼は、

「ジェイドの馬鹿…っ、お前しつこい…!」

 こちらが悪いとばかり悪態づいて、ごつ、と胸に付いた手で拳を握って軽く叩いてくる。痛みなどまるでない。むしろ己で何も気付けていない彼の愚かさに愛しささえ覚えるほど。

 だから肩に埋まる顔を引き上げて真正面に瞳を見据えると、うっとりと甘く微笑んで。

「―――そんな事言われても、貴方が強請ったでしょう?」

「…っ、ね、ねだってなんかない…!」

 すると案の定、酸欠に赤い顔をさらに赤くした彼が全面否定をしてくれる。それなのに捕らえられた瞳は逃げられなくて、ぐ、と顎を引くのがせめてもの抵抗のつもりなのだろうか。

 その余韻に浸れないお子様といわれても仕方のない様子にますます愛しくなってしまう自分は、何処かおかしいのだろうか。それほどまで彼に傾倒していると言う事か。

 少なくとも、

「―――この口で名前を呼んだ、でしょう?」

「っ、あれは…」

「キスの最中に名を呼んで答えたのならば…強請ってると言われても仕方がないですよ。しかもあんなに甘く、蕩けるような声で私を呼んで」

 こんな子供を大人気なく追い詰めていこうとするくらいだから、余程の事をしてまでも欲しいのだろう。

 ―――彼の全部を。

 キスも、体も、心も全部。

「だってジェイドがキスするから…」

「そうですね。貴方にキスがしたくなった事を抑えられなかったのは私の所為です。けれどもそうしたくなる貴方の存在も罪だ」

「どういう理由だよ…俺は別に悪くねぇし…」

 もごもごと言い訳をするように口の中で呟いて、ルークは上目遣いにこちらを見上げる。その様子にそう言って笑う自分にさらにその顔は赤くなるので、あまり追い詰めては可哀想かと頬にキスを落として宥めてやった。

 本当は知っている。彼が自分とのキスが好きな事を。

甘く舌を舐られるとうっとりして、少し焦らすとおずおずと舌を差し出してきて。そうやって焦らすとこちらの思惑通りに欲し、求めると少し戸惑いながらも答えてくれる彼が、自分とのキスが嫌いな筈はないのだ。

もちろんキスとは気持ちがいいものだと何も知らない子供に教えたのは、自分であるのだけれど。

「別に悪くないですよ。キスが気持ちいいから止められないんです。そしてキスが気持ちいいと感じるのは、すなわち…私と貴方の相性がいいってことですから」

「…あ…」

 目一杯引いた顎に指をかけて、すくいあげると顔を寄せる。逃げようとする腰を抱いて、吐息が重なる距離でその翡翠色の瞳を見つめる。するとふと、意地を張っていたそれに濡れた色が混じったのを見て笑ってしまった。

「わ、笑うなよ…」

「おや、すみません」

 だがその笑みにふとそれは隠れてしまい、また意地っ張りな彼が表に現れる。

「そんな顔で謝られてもぜんっぜん、謝ってるように見えないっつーの」

「そうですか? まあ、笑っても謝っても、貴方にキスしたい気持ちは変わりませんからねぇ」

「まだするのかよ…」

「もっとするんですよ。飽きませんから…貴方とのキスは」

「…っ、ジェイド…!」

 囁いて、唇にではなく顔中にキスを降らせる。額に、目蓋に、鼻筋に、頬に…唇以外のすべてにキスを落として…ふと気付く。

 ―――胸に当てられていた拳が、いつのまにか服に皺が刻まれるほど掴まれていることを。

 その手が少し震えていて、翡翠色の目が熱を帯び始めている事を。

 

 

 ほら…求めると戸惑って、焦らすと欲しがって。

 

 

「―――ルーク」

「ジェイ、ド…」

 あれだけ意地を張っていたのに、呼べば、容易に答えが返ってくる。呼ばれた事で欲しくなったものが与えられると、無意識の内に甘く掠れた声音になって。

「ルーク…」

 もう一度名を呼ぶと胸倉を掴む手にそっと手を重ね、顔を寄せる。拒まれないキスを止める術などもうない。求められたキスを止める理由もない。

 さきほどのキスにいまだ濡れた唇に、唇を寄せる。するとすぐさま少し開けられた隙間にひっそりと笑って、その誘いに乗るためにこちらもまた、少しだけ隙間を開けたのだった。








自分で自分の為のご褒美(笑)
とにかくいちゃつけ〜っと思ってガリガリ書きました。
ウチのルークは結構意地っ張りなのですが、堕ちると早いですな(笑)
ジェイドはそんなタイミングすら楽しんでて…。
馬鹿っぷる万歳ミ☆