+確かなもの+ とくん…とくん…とくん。 穏やかに、規則的に並ぶ命の音に耳を澄ませる。聴き入れば、心が安らぐその音は彼の命の音。寄り添う温かな体温から生まれる確かな音。 「…ジェイド」 彼の指がこちらの髪を柔らかく梳く。その心地良さは彼の音に相成って、更にこちらの眠気を誘うようだった。 「ジェイド、何か寝ちまいそう」 くす、と頭上から小さな笑いが零れ落ちる。 かれこれ半時程、この体勢でいた。ベッドに座ってザックの中を確認する彼が組んでいた足の腕に頭を置き、まるで耳かきでもしてもらうような体勢になる。 『―――ジェイド?』 『………』 『…しょうがねぇなあ…』 唐突な事に最初は驚いていたルークだが、こちらが退く気がないと分かるとザックを傍らに置き、まるで母親が寝入りばなの子供にするように髪を梳き始めた。それが心地よくて、ずるずるとこのままでいる、と言うのもあるのだが…。 「何か変なの」 くすりと笑ったルークが、髪を梳く手を止めずに囁く。 「ジェイドが俺にこうしてくれるのは分かるけど、俺がジェイドにこうしてやってるなんて」 「……私だって効したい時くらいありますよ。おかしいですか?」 ぽつりとそのふとももの辺りに顔を埋めて呟けば、くすぐったかったのか、ルークは少しだけ身じろぎをした。 「別におかしくねぇよ。けどなんか…ジェイド子供みてぇ」 「貴方に言われるのは不本意ですねぇ」 「そういう文句は自分の状況見てから言えよ」 彼が笑うと、その振動が体を伝って耳に届く。それはふとももを走る太い血管の鼓動と重なり、微かに鼓膜を刺激した。 ―――鼓動も、体温も、振動も…その何もかもが彼を構成する一部で、そのどれかが欠けても彼ではなくなって。 それを失う事など考えも出来なかった。 だって彼は、ここにいる。手を伸ばす必要もないくらいに、この体の傍に。 「…本当にこのまま寝ちまいそうだな」 「………」 「ジェイド」 その言葉に黙っていると、甘い声音で名前を呼ばれた。そして髪に降ってくる、指ではない感触。 見てはいないが、それが彼のキスだった事は何となく分かった。 「…俺はここにいるよ」 「…えぇ」 「ジェイドの傍にいる」 「…そうですね」 鼓動も、体温も、振動も、まだここにある。やがては消えてしまう、その時まで。 「…貴方はここにいます」 「ん」 「ルーク」 ごろり、と上を向くように仰向けになって呼べば、苦笑した幼い顔が降りて来てキスをくれる。互い違いに顔の向きが反対なキスは、何処か不思議な感覚だった。 だが軽く触れ合うようなキスは直ぐに離れ、名残惜しい感触だけが唇に残る。 「やっぱりいつもと反対だな」 「そうですね」 笑って手を伸ばせば頬に触れ、その手にルークの温かな手が重なる。 「…そこに貴方はいますね」 「何度も確かめんなよ…いるっつーの」 「―――すみません」 笑って、その手の平に頬を擦り付けられた。 その感触は確かなもの。それでもこの愛しい子供はすぐ傍に在るというのに、何度だってそれを確かめずにはいられない。 何度も何度も。 ―――きっと彼が消えてしまうまで。 「…でもいい加減足も痺れてきたから、マジで退いて欲しいんだけど」 そう言って身じろぎをするルークに笑い、頬に当てていた手を退くついでに体も起こしてしまう。するとルークが組んでいた足を何とか崩そうとしているのを見て、 「それなら代わりに、私が貴方をこうして差し上げましょうか」 と、腕を差し出したそこに。 「えー、だったら…」 呟いて笑った彼がどん、とこちらに倒れこんできた。思わず後ろに倒れこむこちらの腰に腕をぎゅうっと回して、半ば乗り上げた胸の上に顔を擦り付けてくる。 「足が痺れて立てないから、このままでいさせて」 言われて彼の背後を見やれば、ぷるぷると器用に足首から先を振って痺れを取ろうとしている。その様子に思わず漏れた笑みと、少しの悪戯心。 「貴方がそう望むなら」 抱きつく彼の髪を撫でて、その足へと気付かれないように手を伸ばして……。 「えぇ―――仰せのままに」 「うひゃっ、馬鹿、足触んな…!!」
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先日の萌茶にてジェイルク切ない話を読ませて頂いた反動の産物。
あれ、反動っていうか感化?
最後ギャグに走ったのは明らかに反動です。
ルークに抱きついて一人切なくなってる35歳(笑)
こんな手のかかる35歳に好かれて、ルークは大変です。