+ラブゲーム+ 「…ルーク隙アリ☆」 「うひゃあ!」 背後からいきなり襲われて、街中だったために無防備だった脇をくすぐられて思わず奇声を上げてしまう。 こんな事をするのは、仲間の内でただ一人しか思いつかない。 「やめ、こら、止めろって…アニス!」 「へへ〜ん」 その小さな手から何とか逃れて振り返ると、そこにはしてやったり顔な犯人…アニスがいて。 「きゃわー、ルークってば…び・ん・か・ん♡」 不意を打たれて頬に熱の上がるこちらをからかうように、アニスは数歩離れた場所で体をくねらせた。 「〜〜〜お前! いきなりくすぐんなよ!」 「だあって〜ルークの背中があまりにも無防備だったんだもん。いい子のアニスちゃんは隙だらけだよ、と親切にも教えてあげたのですよ」 「親切なら口で言えばいいだろ!」 「体に教えた方がルークにはわかりやすいでしょっと」 仕返ししよう共思っても小柄故にすばしっこいアニス。捕まえようとする腕を擦り抜け駆け出し、ちっとも捕まえる事は出来ない。 「単に悪戯したかっただけだろ!」 「さて、どうでしょ〜」 まるでからかうように何度も振り向きながら、一定の距離をとるアニス。それでも躍起になって追い掛けて―――…。 「この、一回くらいは仕返しさせ…うひゃあ!」 いきなりきた悪寒に、さっきよりも大きな声を上げてしまった。 ―――二度目の襲撃はまたも背後からだ。けれども今度は脇ではなくて背中…丁度服の割れ目の辺りをつ〜…と指で辿られた為に背筋に悪寒が走って。 けれども今、アニスは目の前にいる。したがってその次にこんな事をしそうなのは―――…。 「〜〜〜ジェイド!!」 「ふふ。またも背中が無防備ですよ、ルーク」 振り返ったそこには、やはりしたり顔で笑うジェイドがいた。今背中を触っただろう指を立て、それを左右に振って見せながら言う。 「それはアニスに気を取られて…あ!」 「大佐ナイスアシスト☆」 「いえいえ〜」 いつの間にかジェイドの方へと回り込んだアニスが、パンッと片手を軽く上げるジェイドにとハイタッチをした。いい音がして、まんまと二人にからかわれた事を痛感させられる。 「くっそー…二人して俺をからかって…!絶対仕返ししてやるんだからな!」 もちろんこのままやられっぱなしじゃあ、こっちの気が済まない。 「ムリムリ。ルークにアニスちゃんの背後は取れないよ」 「うぐぅっ」 言われ、即座に否定は出来ない。 ―――…確かに。 そのすばしっこさは戦闘中でも、さっきでも、嫌と言うほど知っている。特に小柄で小回りも効くから、必ずしも彼女を捕まえられるか分からない。 そうなれば的も大きな…。 「まずはジェイドからだ!」 「おや」 「え〜大佐から狙うの?そんなん、ルークじゃ絶対敵いっこないって!」 びしっと指を突きつけたつもりが、アニスの全否定をもらってしまう。 「や、やってみないと分からないだろ!」 おまけにぷーっとアニスに笑われて、こっちは更にムキになる。こうなったら、何が何でもジェイドをくすぐってやらないと気が済まない。例えそれがどんなに難しいことだってわかっていても。 「気を付けろよ!いつだって俺は狙ってるからな!」 「おや、熱烈ですね。では気を付けるとしますか」 そう言う口調は、まったくこちらの意気込みなど意識していない様子で。そんな飄々とした態度に、こちらのやる気はますます増幅されるのだった。 それから半日近く、ジェイドを追いかけ続けた。時に物陰から、時にガイの影から。ジェイドの視界に移らない場所から伺い、隙を突いたつもりで背後から襲い掛かる。 ―――なのに。 『隙アリ、覚悟!』 『おおっと、危ない危ない』 『うわっ』 ひらり、とセリフとはまったく裏腹の様子で避けられて、その隣を紙一重で通り抜けてたたらを踏む。 『背後を取るのにいちいち声をかけてたら意味がないですよ』 『わ、分かってるっての!』 その楽しげな声に更にムキになって。 『…くそ、全然背後取れないな…』 『そりゃあ貴方に背後を取られるようじゃ、今まで軍で何を学んできたのやら情けないじゃないですか』 『っ!? な、さっきまであそこにいた筈…!』 『ふふふ、なかなか上手くいきませんね? 降参しますか?』 『す、するかよ!』 機会をうかがうように隠れていたはずなのに、いつの間にか背後に回られている時もあった。 ―――アニスの言った通り、ジェイドをくすぐるのは困難を極めた。気付けば…何だかんだもう、日が落ちてしまっていたくらいに。 「…なんか一日中遊ばれた気がする…」 流石に夕食中は大人しくするしかなくて、散々隣に座ったアニスに馬鹿にされた。部屋に帰ってきてみれば、当の余裕の大人はにこりと笑って。 「もう気が済んでしまったのですか?結構楽しかったのに」 なんて言ってくれる。 確かに的は大きいものの、やはりその身体能力そのものはアニスとは違って尋常ではない。気配にも敏感で、その避ける動作すら計算づくされた動きのようであって、まるで煙にでも巻かれたような気分を味合わされたようだ。 「…やっぱジェイドじゃなくって、最初っからアニスを狙えばよかった」 天井を見上げ、ベッドの上で大の字に寝転んで呟けば、彼は春風がそよぐように小さく声を立てて笑って、 「おやおや。けれど彼女もすばしっこいですからねぇ。私よりも苦労したかもしれませんよ?」 「じゃあどっちにしろ、俺のやられ損ってことじゃん」 「けれど挑戦するのは悪くないですよ」 カツ、と軍靴が珍しく音を立ててこちらへやってくる。真上を見上げているから、ジェイドが数歩近寄ったところで視界にその姿が映った。 やはりその動きには一部の隙もなくて。きっと今日隙だと思って飛びついたのも、わざと作り出した隙に違いない。 遊んでいたのか、それとも相手をしてくれたのか。 「まあ日常生活くらい、多少隙があった方のが疲れなくていいですよ。戦闘中はそうもいきませんから」 「ちぇー」 そういう自分はどうなのかと思うが、いい加減散々彼の背中を追いかけて少し疲れた。このまま目を閉じたらきっと寝てしまうかな、と思いながら。 「ルーク、寝るならお風呂に先に入ってしまいなさい」 そんな様子に気づいたのか、くすり、と笑うジェイドがこちらのベッドの縁に腰を下ろす。ぎし、とそちら側に少しだけマットが傾いて、体が自然とそちらに重心を向けた。 「それともそんなに疲れたのなら、入らせてあげましょうか?」 そう言われても起き上がる気配のないこちらに、ジェイドがくすくすと笑いながら覆い被さってくる。蜂蜜色の髪が肩から零れて、顔の上にと落ちてきて―――。 「―――隙あり!!」 そのタイミングを見計らって、ジェイドの脇に手を伸ばした。 「へへーんっ、こうすればきっとジェイドは隙を見せると思ったのは大正解だったな! どうだ、この、こちょこちょこちょ…」 「………」 少し手間のかかる様子を見せれば、きっと構いに来るだろうと踏んでこの作戦をとった。するとまんまとそれに彼は乗って、こちらに覆い被さってくるものだから、その無防備な脇に手を伸ばすことが出来たのだ。 我ながら、何て頭のいい作戦……。 「…こちょこちょ…って、あれ、無反応?」 だが、くすぐられている当の本人は無反応、というか、こちらを見下ろしていて。 目が合って、にこり、と今日最高の微笑が降ってくる。 「―――貴方を甘く見ていたようですね」 脇をくすぐっていた手など気にもしないで、笑う彼の手がこちらの頬に滑る。その触れ方に、もしかしてしなくてもピンチなのではと頭の隅で警鐘が鳴り響いた。 諸刃の剣…そんな言葉が頭に浮かぶ。 ―――それでも気になるのは…。 「ってジェイド、くすぐられてもくすぐったくないのか…?」 「あぁ。私『そういう』のには不感症なので」 「そんなん意味ないじゃん!」 何のためにこの半日、彼の背中を追いかけてきたのだろうか。くすぐれた事は嬉しいが、何も感じない相手ではその喜びも半減する。 ―――こう彼にも自分のように不意を突かれて、変な声を上げさせたかったのだ。 「ず、ずるい」 いつの間にやら随分と近くなった顔をむくれて見上げれば、ちゅ、と額にキスが降ってきた。 「おや、せっかく成功したのに浮かない顔ですね」 「くすぐったくないんじゃ意味ないし」 「こういうのは、成功した事に意義があるのではないですか?」 やがてキスは顔中に降り出して、彼の体重が圧し掛かってくる。こんな状況も、成功した事を素直に喜べない原因だ。 まるで自分を囮にして、掴み取った成功。 もしかしてこれすらも彼の思惑通りなのかと思えてしまうほどに。 「私の隙を突いた貴方にご褒美をあげましょう」 「ひゃ!」 するりとわき腹を撫でられて、もう逃げられなくなったその下で顔が赤くなる。 結局変な声を上げさせられてるのは自分ではないか。きっとこれからもっと変な声を上げさせられるに違いない。 「貴方を餌に釣られるなんて、私もまだまだですね」 そんなジェイドにこんな状況に追い詰められている自分なんて、まだまだの足元にすら及ばないのだった。
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爽歌様よりリクエスト『ジェイドをくすぐるルーク』でした
セクハラにしようかと思ったのですが、こっちの方が楽しげだったので…。
ジェイドはくすぐられるのって平気そうですよね。
ルークは逆にめちゃくちゃ弱そうです。
ムキなって自分の背中を追いかけるルークに、
ジェイドはきっと楽しくて仕方なかったに違いない。
…って、あれ、『ルークをくすぐるジェイド』でしたか…?
ま、間違ってたら申し訳ないです!
というか逆も書きたいので…書いてもいいですか?