「いつもジェイドばっかりズルイ」

「はあ」

「だから今日は俺がやる」

「―――う〜ん…まあ別にいいんですけどね」

 

 

+青少年の主張+

 

 

子供の言う事はいつも唐突で、突拍子がない。

野宿ばかりが続いて、久しぶりの宿屋となればやる事は一つしかなくて。部屋についてベッドに誘い、さあいざやりますか、のタイミングで彼から待ったがかかった。

彼いわく…自分からいつも服を脱がされるのはズルイのだと。今日は俺がジェイドの服を脱がす、との意気込みで。

自分としてはさっさと転がして、有無を言わさずに文句も言えないような状態にしたいのだが、彼のやる気を削ぐ事も出来ず、たまにはそういう趣向もいいかと好きにさせる事にした。

「それじゃあお願いしましょうか」

「よし」

何故にそんなに気合いが入っているのやら。素直に転がされ、こちらからの愛撫なりキスなり大人しく受けていれば、簡単に快楽は手に入るというのに。

やはり、子供の考えている事は単純でいて、複雑だ。簡単に理解できる事も多いのだが、理屈では通らないところもあり、理解に苦しむ。

「さあどうぞ」

それでも納得した振りをして、ごろん、と覆いかぶさる彼の下に寝転がる。普段なら見下ろす立ち位置である自分が見下ろされるというのも、不思議な感覚だ。唇を一文字に引き結んだ彼が、深い翡翠色の瞳でこちらを見下ろしている。

「じゃ、じゃあいくぞ」

「はいはい」

若干空回りしているような気合いを込めた目で見下ろし、彼の手はこちらのベルトにかかる。

それからしばらく、カチャカチャと金属の鳴る音が続いて…。

 

 

 

「―――…ルーク」

 

「何だよ…今いいところなんだから邪魔すんなよ…!」

「…そうですか」

いつまで経っても外れないベルトに、相当苦戦しているようで。見兼ねて手助けを申し出たのだが、断られてしまった。自分のベルトはそんなに複雑な構造をしていただろうかと、じっと奮闘する彼を見上げて思う。

それからまたしばらくして…。

「………外れた!」

「おめでとうございます」

なんて嬉しそうな声を上げてベルトを掲げるので、思わず拍手をして賛辞の言葉をかけた。内心、ベルトを外す時間で軽く彼を全裸に剥けるな、と思いつつ。

「次は上着!」

ぽい、とベルトが隣のベッドに放られた。それの行方を視線で追いつつ、ベルトを外されている最中ずっと思っていた事を、口にしてみる。

「―――あの、差し出がましい事とは思うのですが、上着は自分で脱ぎましょうか?そうしたら後はシャツだけですし」

再度提案してみる。ベルトだけであぁも時間を食ったのだ。ボタンだらけの軍服の上着に、どれほど時間がかかるのか分かったものではない。

彼に意地を張らせないよう、出来るだけ丁寧にお願いしたつもりだった。

それでも。

「駄目だって。今日は全部俺が脱がすって言ったじゃん。ジェイドは寝てればいいよ」

「―――そうですか」

 説得に失敗する。

…こんな事になるなら、最初からOKなんてするのではなかった。自分の上に彼がいるというシチュエーションですら、何かと悪戯心の湧くものなのに、それでも尚お預けなのか。

手を伸ばせば、届くところに彼はいる。あぁ、自分はこんなにも早く彼に触れたいのに。

けれどもそんな大人の都合に構わず、彼は軍服の一番上のボタンに手をかける。着慣れた自分はともかく、常時二つしかボタンの付いていない服を着ている彼にとって、それは難関なのではないだろうか。

 案の定。

「…ジェイドの服って無駄にボタンが多いな…」

 もたもたと、その手が胸の上で動いている。

軍服なぞ生地が硬く、したがってボタンホールもきつい。不慣れな人間が、しかも人の服を脱がすなど、それこそ無駄に時間のかかる作業に間違いない。

確実にボタンは外れてはいくが、一つ当たりにかかっている時間はおよそ20秒。つるりと手から滑ってまた掴んで、何とかボタンホールに通そうと苦戦を繰り返すので、時折更に無駄な時間を食う。

いつもはほほえましく思う彼の不器用さが、今日ばかりは少々苛立たしい。

「…ルーク」

「もう、ちょっと…」

「………」

 痺れが切れて呼ぶが、相手にしてもらえなくて。

 ルークの手はようやく最後のボタンにかかっている。あと少しの辛抱なのだが―――…。

「ちょ、ジェイド!邪魔すんなよっ」

「邪魔はしません。私も始めさせて頂きますので、そのままルークも続けてください」

 ぬっと下から手を伸ばし、彼の上着のボタンに手をかける。抗議の声が当然のようにかかるが、気にせず、促して自分の作業を押し進めた。

「う〜…負けないからな」

「頑張ってください…ほら、もう上着が脱げましたよ?」

「わ」

 ぺい、とボタンに苦戦する腕を払うと、あっさり上着を引き抜いて隣のベッドに放る。脱がされた本人は何をどうされたのか理解できないような顔をしているが、構わない。次は簡単なベルトだ。

「〜〜〜くそ」

 はたと我に返った彼が、改めて最後のボタンを外しにかかる。しかしその腕をかいくぐり、こちらは易ともあっさり彼の腰からベルトを引き抜いた。

それもまた、隣のベッドに放る。

「…外れたっ」

 するとようやくボタンを外した彼が、こちらの上着の前を開ける。そして更にその下に着ているシャツに手を伸ばそうとして、こちらに腕を伸ばした状態で上体を傾けた時、残っていたシャツを引き抜いた。

「!!!?」

「はい、後は下だけですね〜」

「な、なんで…!?」

 慌てて体を起こす時に、腕に絡まっていたシャツを奪い、それもまた隣のベッドに放る。もう後は下だけだ。だが下はこの体勢では今のように早業で脱がす事が困難になる。

 体勢を入れ替える事を強く希望した。

「貴方がボタン一つに手間取っている間に、私は貴方の全部を暴く事が出来ますよ」

 言うと、彼はうぐ、と言葉を詰まらせる。

「だって…ジェイドの服が脱がしにくいんだ!」

「それは認めます。貴方の服が脱がしやすいって事もあるんですけどね…だから、ルーク」

 不満そうに頬を膨らませる顔に、こちらは困ったように笑う。

「そろそろ私に主導権を譲ってもらえませんかね?あまり待たされては…この後抑えられる保障がありませんよ」

「!!」

 それを聞いて、ぎくりとルークが肩を揺らした。そのままこちらの視線を避けるようにうつむいて、

「ま、まだ全部脱がせてないじゃん…」

 もごもごと聞き取りにくい声で呟く。この期に及んで、まだこちらの服を脱がせたいのかと、それはそれで少し感心した。

 けれども、これ以上はお互いの為にならない。久しぶりだからといって、負担をかけるつもりはまったくないのだから。

 

「…お願いです、ルーク」

「―――う〜…分かった」

 

 心を込めてお願いすれば、ルークはしぶしぶといった様子で了承してくれた。そうと決まれば話は早い。上体を起き上がらせて彼を抱くと、くるりと立場を逆転させる。ルークを下に、自分は覆い被さって。

 あぁ、やはりこちらの方が落ち着くようだ。

「けれどもよくやった方だと思いますよ。貴方にしては」

 ボタンだけ全部外されて、前がだらしなく開いている上着を脱ぎ捨てる。シャツの前を半分程開けてから改めて彼を見下ろせば、

「…何真っ赤になってるんですか」

 そんなこちらの様子を見上げて、ぽ〜っと頬を染めている彼がいて。

「だって…色っぽいなあって」

「………貴方は可愛らしいですよ?」

「嬉しくない…あーあ、せっかく恥ずかしがるジェイドが見れると思ったのに…」

「何なんですか、それは…」

 思いも寄らないことを言われ、彼のズボンを引き下ろそうとした手が思わず止まる。

「だって俺、ジェイドに脱がされるのってものすっごい恥ずかしいから…きっとジェイドも恥ずかしいんじゃないかって…」

「貴方、そんな事を確かめる為に私を脱がそうとしていたんですか」

「う…だって」

 呆れた視線で見下ろせば、俺ばっかり悔しいじゃん…、と消えるような声で呟く。最初の「ズルイ」には、そんな真理があったのかと今更ながらに納得した。

 顔は可愛らしいくせに、変なところで男の沽券にこだわる彼はまた、そこも可愛いのだけれども。

「まあこの年になって恥ずかしいも何もありませんが…」

 ずい、と顔を近づけて微笑むと、びくりと何かを覚った彼が肩を震わせる。

 

「存分にお預けを食らいましたので、切羽詰って尚且つ焦っています。この落とし前はき〜っちり、付けてくださいね?」

「〜〜〜〜ちょ、タンマ…!!」

「待ったは今更…なしでしょう」

「!!」

 

 その怯えようは逆に嗜虐心を煽るというのに。負担をかけないつもりだった理性はとうに何処かにいってしまって、あるのは抑えられて牙を剥きかけている欲望ばかり。

「服を脱がされる羞恥なんて目じゃないくらい…味合わせてあげますよ」

「…っ…ジェイド!」

 呼び声すら、甘く。

 さえぎるように伸ばされた腕をくるりと掴んで片手にまとめると、もう容赦はしないとばかりに下着ごとズボンを足から引き抜いた。









ルークには絶対あの軍服は脱がせないに違いない。
てなわけで頑張らせてみましたが、その前に大佐殿が我慢できませんでした。
ジェイドならきっと一瞬でルークを素っ裸に剥けそうだ。

というか、大佐が脱ぐシーンって問答無用に色っぽいとか思ってるんですが。
え?
ウチでは彼は攻めですよ?