「きゃわー。ナタリア可愛い色の持ってるんだぁ」

「素敵でしょう?お気に入りなんですよ。ティアはベージュ系が多いですわね…ピンクも似合いそうですのに」

「わ、私はあんまりお化粧しないし…」

 女性陣が集まってわいわいやってると、独特に華やぐ雰囲気がある。何をやっているのか興味が湧いて、ミュウを連れ立ってその輪の中に紛れ込んでみた。

「なーにやってんだ?」

「ですのー」

 

「あいつ勇気あるよなあ…」

「あの輪の中に混ざってても違和感ないですけどね」

 

 

+独り占めしたい+

 

 

「何してんだ?みんなして」

「あらルーク」

「えー。乙女の集会は男子禁制だよぉ」

「ケチケチすんなよ。気になるじゃん」

 三人が輪になるように座るその一端に、ルークはミュウを肩に顔を覗かせる。見やると、机の上には何やら細々した物が転がっていて。

「お化粧品、ですわ」

「化粧品?」

「女の子の必需品…言わば顔専門の装備アイテム?」

「それはちょっと語弊があるような…」

 手に取れば入れ物もちょっとした凝った彫がしてあったり、少しいい匂いがしたりする。色んな色があって、まるで絵の具みたいだとルークは思った。

「これ顔に塗るってことか?」

「いい匂いがするですの」

 絵の具を顔に塗るなんて想像もつかなくて、顔をしかめると、ナタリアが笑う。

「塗るというか、まあそうなんですけど」

「化粧するとばちっと決まる、と言うか、男の子にモテモテ〜っていうか」

「ちょっとした身だしなみ、という感じかしら。大佐がコロンを付けているのと同じようなものよ」

「ふーん」

 ジェイドがいつもいい匂いをさせているのも、確か身だしなみだと言っていたのを思い出し、納得する。

 けれどもその理論でいくと…。

「でも別にみんな顔きれいだし、必要ないんじゃないのか?」

「まあ」

「うわ、ルークってばどうしちゃったの?」

 思った事をそのまま言えば、女性陣が目を丸くして驚く。その反応に、逆にこちらが慌ててしまって。

「え、だって…お、俺、何か変な事言ったかな??」

 おろおろ視線を彷徨わせると、ティアもくすくすと笑いながら、

「変な事は言ってないわ。ちょっとあなたからそんな言葉が出るなんて思っていなかったから、驚いただけよ」

「そ、そうかな」

「逆にルークから言って頂けると、より言葉の真実味が増しますわね」

「嘘が付けないもんね〜」

「………」

 視線を交わして嬉しそうに笑う彼女らは、別に怒ってはないようだ。自分が言ってしまった言葉がどう思われたのか、よく分からないけれども。

嘘は別に言ってない。そこらで見る女の人よりは、うちのパーティにいる女性陣はきれいだと思う。そんな彼女らがよりきれいにするために『化粧』と言う物をするのだから、それは大変なものなのだろう…と。

 

「そうだ!ルークも化粧してみようよぉ」

 

「へ?」

唐突に、アニスがそんな事を言い出した。

「まあ、それはナイスアイディアですわ」

「…可愛いから…似合うかもしれないわ」

 何て同意したティアとナタリアを含む全員の視線が、一斉にルークを捕らえる。

「え、ええええ?だって、それ、女がするもん、なんだろ?」

「今は男性でも化粧される方がいらっしゃいますのよ」

「逆に男のがキレイ〜ってときもあるもんね」

「そ、そうなのか…?」

「大丈夫、ルークなら絶対似合いますもの」

「似合うに決まってるわ…口紅はピンクよね…」

何故か頬を染めたティアが口紅を手に迫ってくる。傍らにいたはずのミュウを身代わりにしようと探すも、既に逃げた後で。

「さあさあ大人しくなさいな」

「ピンクの口紅」

「うぎゃ〜〜!」

気が付けば背後から巨大化したトクナガに捕まえられていて、自分の逃げ場はなかった。

「あ〜あ…やっぱ捕まったか」

「恰好の獲物ですからね〜」

「旦那なんだか楽しそうだな…」

 

 

 

「…はい、おしまいですわ」

「…お〜」

「…可愛い…」

「…………何がどうなったんだ…?」

捕まってどれくらいたったのだろう。思えば不用意に近付いた自分の方が悪いわけで、こうなってしまったのも自業自得と言えばそうなのだけども。

何だか色々顔に塗られたり、描かれたりしたらしい。口をいーっとしろだの、顔はそのままで目だけ上を見ろだの、色んな注文をされた。

…それで結局自分の顔はどうなったんだろう?

「ルークはお母様似ですから、お化粧が栄えますわ」

「可愛いわ、ルーク…」

「絶対変な顔になると思ってたのに反則〜!」

何て、勝手なこと言われて、ますます自分の顔が不安になる。もしかしてナタリア達はおかしいと思っているのに、それを堪えてそんな事を言っているのではないのかと。

「な、なあ何か顔の上に違和感があって…早く落としてくれよ」

 顔の表面に何か塗られている感覚は、慣れるものではない。それでも擦って落とす気にはなれず、頼んでみれば、

「え〜、落としちゃうのもったいないじゃん」

「もったいないって…絶対変だって!」

 反対されて、こちらも反論する。大体

「そんな事ありませんわよ。ルークはとても似合ってますわ。ね、大佐?」

「え」

「どれどれ」

 背後まで彼が迫ってきているのに気付けなかった。思わず振り返って…目が合ってしまって。

「!!!!!!」

「おや、ずいぶんと可愛らしい。意外とよく似合いますねえ」

 一番見られたくない人に見られてしまったかもしれない。自分すら得体の知れない顔を、ジェイドに見られた。しかもそれを見た彼の言葉に、何故かカッと頬に熱が走って。

「お、俺…顔洗ってくる!」

「あ、ちょっとルーク。ただ洗うだけじゃ落ちませ…」

 ガタン、と立ち上がると引き止める声を振り切って、部屋へと逃げた。真っ先に洗面台に向かい…そこでようやく自分の顔を見る。

そこに映っていたのは自分の顔。けれども唇に色がついていたり、頬が少し赤かったりして(それは今とんでもなく恥ずかしいからかもしれないが)、いつもとは違う…。

「…やっぱ変じゃんか」

「―――そんな事はないと思いますけどね」

「!?」

 鏡越しの背後に、ジェイドが立っていた。またも最小限音を消して歩く彼に気付けなくて、もう二度と見せたくないのにばっちり鏡越しに見られてしまう。

「へ、変だろ」

「変じゃないですよ」

その手には何かを持っているようだった。

 また見られたことをショックに思って固まれば、それを見透かしたように彼は笑い、手にしていた小瓶を小さくこちらに振って見せる。

「顔を濡らしては駄目ですよ。化粧というのは油が原料ですからね。濡らしてしまうと落としにくいんです。ナタリアから専用の洗顔剤を借りてきましたから、これを使ってください」

「あ、ありが…って」

 さっさとそれを使って落とそうとするのに、手を伸ばせばひょいっと彼はそれを届かないところに掲げてしまう。

「か、貸してくれよ」

「貸しますよ。けれど、…もっとその顔をよく見せてください」

「―――い、嫌だ」

 小瓶をぽいっとポケットの中に隠すと、その手が伸びてくる。逃げようと思うのに、洗面台と彼の間に挟まれ、逃げることなんて出来はしなかった。

 伸びてきた手に、顎を掴まれると視線すら外せない。

「み、見るなよ〜」

「減るもんじゃないですし、いいじゃないですか」

 目を合わせたくなくてぎゅっと目蓋を閉じれば、くすくすと笑いながら彼は言う。その笑い声にますます顔に熱は上がるばかりだ。

「笑って…ほら、おかしいんじゃないか!」

「そういう意味で笑ったのではないですよ…誤解を招いたのならすみません。言うなれば…そうですね」

 気になるところで言葉を切ったジェイドに、おそるおそる目蓋を開ける。するとそこには吐息が触れるほど近くにジェイドの顔があって。

「!」

「―――あぁ、そんなに嫌な顔しないでください。せっかくの可愛い顔が台無しだ」

「か、可愛いなんて言うな…」

「可愛いですよ。どんなだって私の貴方は可愛いんです」

「………答えになってない」

「そうですか?それじゃあ―――キスしますよ」

「それこそ答えに…っん」

 唐突に言って、すぐに唇に彼の薄い唇の感触が重なった。口には確か口紅とかいうものが塗られていたはずだ。そんなのが塗られている唇にキスなんてしたら、気持ち悪いに違いないのに。

「…ん…ふぁ…っ」

 それでもジェイドはいつもと変わりがないくらい、むしろ少ししつこいくらいにキスを与えられた。唇に飽き足らず、口の中すら舌で犯されて…鼻に付いていた化粧の匂いは、彼のコロンの香りに打ち消されてしまう。

「…は、はぁ…馬鹿ジェイド…っ」

 散々貪られて、離してもらえた頃には立ってもいられなくて。崩れ落ちそうなのを、腰を抱いたジェイドに支えられて、辛うじて立っていられるような状態だった。

「それじゃあ十分堪能した事ですし、さっさと落としてしまいましょうか」

 服にしがみつきながら酸欠に滲んだ視界の向こうの顔を見やれば、満足そうに微笑む彼の顔がある。

「…落として欲しいのかそうじゃないのか、どっちなんだよ」

 彼の言動には矛盾があってそうぼやけば、不意に近寄ってきた顔に頬にキスを落とされて…囁く。

 

「―――こんなに可愛い貴方を、他の輩に見せたくはありませんので」

 

「!」

「あんなに可愛いのは犯罪ですから。私の記憶に留めておけばいいんですよ。あ、それとも二人っきりの時、またお化粧して差し上げましょうか?」

「そ、そんな事考えるのはジェイドだけだっつーの!」

 腰がようやく立ってきて、ぐい〜っと抱き寄せる胸を押し返すとはた、と気付いた。

 ジェイドの唇に、キスした時に移ってしまったのだろう口紅の跡があることを。それが無性に恥ずかしくて、頭がぐるぐるして。

ジェイドの手から洗顔剤を引っ手繰ると、慌てて洗面台にと向かったのだった。









男の化粧ってどうでしょうか?
私は結構いける方なんですが(ヴィジュアル系スキーですからでしょうか…)
うん、ひとまずルークは可愛らしい方向で。
マスカラとかはなしで可愛らしく〜で想像していただけるといいと思います。
ティアには徹底的に可愛いもの好きに徹して頂きました(笑)
こういう壊れたティア好きだなー…。

ようするにルークなら何でもいいらしいよ、眼鏡(愛は盲目)