その抱きついた体温は酷く温かくて。

 その呼ぶ声は酷く甘くて。

 名を呼んで抱きつかれるたびに、綻ぶ口元を隠せない。

 

 

+大人と子供+

 

 

「ジェイ〜ド!」

「…おや」

 名前を呼ばれたと思えば、どん、と後ろから衝撃がくる。それと同時に背後から腰のあたりに回された腕と、背中に感じる体温。

「ルーク」

「へへ」

 呼べば、照れたように笑う彼。

 ここは街中だと言うのに、その幼いが故のスキンシップは変わりはしない。少し人目を引くのが気になるが、無邪気な顔を見ていると止めさせる事も出来なくなってしまった。

 そんな甘い自分に、苦笑は零れる。

「いきなり後ろから抱きついたら危ないでしょう?」

 離れない彼を肩越しに振り返って、形だけの注意をする。すると案の定、彼はだって、と不満を口にした。

「ジェイドを見つけたから…」

 彼らしい、素直に言葉に思わず口元が綻ぶ。

 自分を見つけたらから、駆け寄って。その名を呼んで、抱きついて。大人ならば途中でセーブするような事を、彼はためらいもなく実行する。よく言えば素直、言葉を変えれば本能に忠実。七歳の子供を考えれば、当たり前のような感情表現だ。

「ジェイドが迷惑ならもうしないけど」

 そう言ったのを、咎められたと思ったのだろうか。

 するりと腰に回っていた腕が解け、背中から、体温が一歩だけ離れる。見れば、少しいじけたような顔をして。

 ―――純粋すぎて、ネガティブな思考すらも素直に受け入れてしまうのは彼の悪いところだ。誰もそんな事言っていないのに。誰も迷惑だなんて、欠片も思っていないのに。

 むしろ気に入っている、彼の稚拙な愛情表現。

「やれやれ―――しかたのない子ですねぇ」

「わ」

離れた彼に手を伸ばし、赤い跳ね毛を撫でてやる。

自分は大人だから、こんな往来ではこれくらいの愛情表現しかしてやれない。それでも彼は落ち込んでいた顔を途端に嬉しそうにして、やめろよ、とか言いながらもこちらの手を振り払う事はしなかった。

「誰も駄目だなんて言ってないでしょう?」

「でも」

「抱きつくのは構いません」

 明確にそう言ってやれば、ぱあ、と彼の顔が輝いた。そんなに顔に出るほど自分に抱きつきたいのかと、少し驚く。

けれどもそれを内心に隠し、顔はにこりと微笑んで子供に言い聞かせた。

「背後から抱きつく時は、もう少し勢いを緩めにお願いします。そうでないと、貴方の勢いで倒れてしまいそうですからね」

「うん、分かった。次からは気をつけるな!」

 なんて素直に頷いてくれはするものの、恐らくまた抱きつく時は目一杯の勢いなのだろうことは予想できる。その勢いすらも、自分を見つけて嬉しいのだという彼の愛情だと思って。

 この甘さの結果―――彼と分かれて行動する時は、いつ抱きつかれてもいいように足を踏ん張っていないといけなくなったが。

「ジェイドは今から買い物?」

「いえ、一足先に宿に帰りますよ」

 買い物なら仲間たちが済ませているはずだ。自分はまとめたい書類のために、一足先に宿に戻る途中で。

 それを伝えると、ちらりと上目遣いで彼がこちらを見上げる。

「―――じゃあ俺も帰ろっかな」

「そうですか?仕事をしに行くだけですよ?」

 少し意地悪げに言ってやると、かっと頬に赤みが差した。そしてなにやらもごもごと言いたそうに口を戦慄かせ、やがて怒ったような、照れたような、そんな声で言い放つ。

 

「…ジェイドと一緒にいたいんだよっ」

 

 ―――あぁ、自分も彼ほど素直だったなら。

 いいところも悪いところも、すべて彼はそのままでいいのだと。

「それじゃあ…はい、どうぞ」

私も、とは口では言えず、手だけを差し出す。

するとその手とこちらの顔を見比べた彼は、おずおずとその手を握り返した。自分は大人だから、これくらいささやかな愛情表現しかしてやれないけれど。

「行きましょうか」

「……うん!」

 促せば、そんな建前で覆い隠した愛情表現ですら嬉しそうに笑う彼に、自然と口元は綻んだ。









ばっふぅ!!
誰ですか、この人たちは??
こう春コミの戦利品を漁りながら他所様の可愛らしいルークを見て、
「可愛いルークが書きたい…」
と妄想ぶっこいて書いた結果がこのザマです…。
眼鏡も偽眼鏡だし…なんですが、この人目をはばからず往来でイチャつくばかっぷるは…!
後ろ指指されまくりですよ、恐らく。

何だか新鮮な気持ちで書けました…たまには違う事をしてみるもんだ。