その声が聞けなくなり、どれくらいの夜が更けたのか。その温もりを失って、どれくらいの朝が訪れたのか。

 

『……ジェイド』

 

もうその声が名を紡ぐ事はないのだと、理解しながらも納得が出来ないまま、いつまでも明けない夜の中に身を委ねている。

 

 

+明けない夜+

 

 

彼らの存在と引き換えに訪れた世界は、けして平和とは言えなかった。縋るべき預言を失った世界は非常に不安定で、各地で小さな小競り合いは絶えず、戦争によってもたらされたレプリカ問題はいまだ頭を悩まされるものであった。

そんな中―――彼が消えた日を境に、自分はレプリカ研究を再開した。過去の自分のしてきた事に対する罪の意識からではなく、それは自分が成せる唯一の事として。

自分が消える事で世界を保つことが彼の成した事だったように、それが自分に成せる事だったからに過ぎない。

―――それが…研究を続ける事が唯一、彼との接点を見出だす行為なのだと気付いたのは、彼が世間的に『死んだ』のだとされた時だった。

今はただ、主なき墓が彼の生家にあると聞く。

その墓前には未だ立ったことはない。これから先も立つ事はないだろう。中身のないものに自分は興味はない。

 

『帰ってくる…絶対に』

 

その言葉を信じているのだろうか。

だがローレライを音譜帯に解放する為に、もともと乖離の早まっていたその体からは音素は完全に乖離し、ローレライ共々音譜帯へと上っていっただろう。

…その言葉が保障するものなど何もない。

―――それでも。

ふと、暦が目に入る。そう言えばもうすぐ彼の成人の儀なのだと、かつての仲間づてに聞いていた。キムラスカでは中身のない彼の墓に対し、形式的な儀式を執り行うのだと。

それこそ意味のない…興味のないことだ。中身のない『空の彼』では意味がない。自分を呼ぶ声を持たぬものに興味はない。

 

『ジェイド』

 

…あぁ。

明けない夜などないのだと教えてくれたのは彼なのに。

ひだまりのような温かさを与えてくれた彼自身が、自分にとっての夜明けだったのだろう。明けない夜は自分。太陽のない世界に朝は訪れはしないのだ。

―――夜明けはもう、訪れない。

 

『帰ってくる…絶対に』

 

「…ルーク」

名前を呼ぶことで繋ぎ止めていた。薄れていく記憶と、自分を。

「貴方はいつまで私を待たせれば気が済むのですか?」

一人ごちると、不意に室内に日が射した。

永遠に来ない夜明けを待つ自分にも、世界は平等に夜明けをもたらす。

 

―――君がいなくても、世界は変わらずに回るのに。君がいないと、自分の世界は止まったままだというのに。

 

「―――ルーク」

 無意味だと知って尚、名を呼ぶ。

 ―――夜明けはまだ、来ない。









自己満足ネタ。
春コミ行きの早朝新幹線の中、寝不足気味の脳みそで書いたものです。
この後EDラストのお迎え〜の方向で流れていきます。
きっとウチのジェイドはルークなしじゃ駄目人間。
表面的には変わらないようでいて、中身は空っぽになっていそう。
陛下あたりは気付いてくれそうだけど、どうにも出来なくて、どうにもならなくて。
こんな情けない大佐はどうだろう…いやいや、でもでも。
短文でした。