「ジェイド、さっきのアレってさぁ」 「ジェイド!何やってんだ?」 「ジェイド〜!」 「ジェイドっ」 「ルークは本当にジェイドが好きなんですね」 「え」 +大好きな人+ いきなりイオンに言われ、その言葉を頭で理解出来なかった。 「な、何が?」 思わず聞き返せば、彼はにこりと笑い、 「そのままの意味で、ですよ。違いましたか?」 なんて言われて、うろたえる。 「ち、違うって言うか…」 「名前の呼び方からして違いますよね。何て言うか…すごく信頼していると言うか」 「あ…そっちの意味か」 「そっち?何か違う意味と勘違いなされてましたか?」 「あ、いやいや」 こちらの様子に首を傾げるイオンに、慌てて頭と手を左右に振ってごまかす。 彼の言っている好きは、どうやら『信頼』や『仲間』としての好きで。思わず『そういう』好きなのだと勘違いしていた自分が恥ずかしくなる。 「ま、まあ確かに…好きだよ。やっぱ一番年上だし、色んな事知ってるから頼りになるし。強いし、槍も、譜術だって…」 地位だってマルクトの大佐であるし、家柄だって申し分ない。容姿だって顔だって…。 言い出すときりがないくらい、彼は完璧だった。 「問題があるとしたら性格とか…」 「ふふ」 「………あ」 考え込み始めた自分を、ふと笑うイオンの声が現実に戻す。見ると、彼はこちらを見ながら笑っていて。 「イ、イオン?」 「やっぱりルークはジェイドの事が大好きなんですね」 「え、いや、だから…そうなんだけど、そう言うんじゃなくて」 その笑顔には何もかも見透かされているようで、否定していいのかどうかすら分からず、ただ困って頭をかく。するとそんなこちらを見て、彼はますます笑みを深めた。 「ジェイドが羨ましいです。ルークにそんなに好きになってもらえて」 なんて、そんな事まで言い出すから慌てた。そんなにも自分は彼を特別視しているのだろうか。確かに好きではあるが、表だって言い触らして歩いているわけではないのに。 「イ、イオンの事だって好きだぞ。何かぽや〜っとしてるから守らなきゃって思うし!」 苦し紛れだが、本心から思っている事を言う。すると彼は少しだけ声を立てて笑った。自分は何かおかしな事を言っただろうか。 「ありがとうございます、ルーク。けれど、貴方にとっての一番はジェイドなのでしょうから、あまり僕が我が儘ばかり言っては貴方を困らせてしまいますね」 「??」 ―――イオンは一体、何を言いたいのだろうか。 今はそれよりも、自分がそれほどまでジェイドの色んな部分を好きなのだと思い知らされた事の方が気になって。 「羨ましいです、本当に」 最後に彼が呟いた言葉の意味すらも分からなかった。 「おや、何処に行っていたのですか?」 「あ…うん、ちょっとイオンとしゃべってた」 イオンにあんな事を言われたからだろうか。部屋に戻ると当たり前のように彼がいて、その存在を意識してしまう。 (俺ってそんなにジェイドジェイドってうるさいのかな…) 出掛けた時と変わらず、相変わらず机に向かい何やら帳面に書き留めている彼の背中を見つめ、ベッドの縁にどかりと腰を下ろす。 (確かに…そりゃあ意識はしちゃうけどさ) 向けられた背中が、華奢な外見とは裏腹に頼もしい事は知っている。意外と着やせするタイプで、力だって本当は自分より強い。身だしなみに気を使っていて、いつもいい匂いがする。さらさらの髪に包まれると幸せな気分になるし、触れてくる手に肉刺が出来ていることだって知ってる。 ―――唇が薄いことだって…。 (…って、それじゃ意味違ってくるし!ていうか十分意識しちまってるじゃん、俺!) 連ね始めた彼の事を振り返り、頭をかき乱したい気分になる。その見方は明らかに信頼に足る仲間に対するものではない。明らかに『そういう』対象として意識する見方だった。 上げていけばそればばかり。意識しすぎてるにも程がある。 (やばい俺…もしかして、自分で気付いてないだけで実はものすごく…) 「ルーク〜?」 「へ…おわぁっ!?」 呼ばれてはたり、と気が付いて驚く。 目の前に彼がいた。ベッドの縁に座るこちらの前に膝をついて、顔を覗き込むようにして。 「び、び、びっくりさせんなよ!」 「ここまで接近を許しておいて、気付かない貴方がおかしいんですよ。大体、何処か出掛けていたと思ったら帰ってきて、しかもこちらを凝視しているかと思えば、こちらが近づいているのすら気付かないほど考え込んで」 「それは…」 「イオン様と何を話してきたんですか?」 にこり、と笑顔の彼はこちらを促す。否、言うことを強制している。 それでも、 「い、言えない…」 まさか人にそんな事を指摘されたなんて言えなくて、意地でも黙ろうとすれば、笑顔の彼は口元に笑みを張り付かせたまま、笑っていない目でこちらを見つめる。 「おや…私に言えない事でも話していたのですか?悲しいですね…素直でない子には、仕置きが必要ですか?」 「!〜〜〜…だって」 「ルーク。私は素直な子が好きですよ」 そんなふうに言われたら、言わざるを得ないではないか。 意識しすぎていることに気付いてしまったから。自分がこんなにも彼の事を『好き』なのだと、人に気付かれた後に自分が気付くなんて。 ただ彼の言う『お仕置き』が怖いだけじゃない。 「…イオンが」 覗きこむ彼の視線から逃れることが出来なくて、顔を赤くしながら説明をさせられた。それでもさすがに今さっきまで、彼の背中を見ながら思っていた事は言えなかったけども。 自分がどれほど彼の事を好きなのか。そんな事を思っていたなんて、とても彼には言えない。 「―――なるほど」 隠していることはばれていないだろうか。話を聞いて一つ相槌を打つ彼は、ちらりと視線を横へと滑らせる。 「…羨ましい、とは…注意が必要ですかね」 「なんでイオンに注意が必要なんだ?」 注意が必要なのは主に彼に対してだと思うのだが。そう思って言えば、彼は呆れたような、困ったような笑みを見せる。 「私は貴方が鈍くて良かったと思う反面、もう少し鋭くでもいいとも思うんですけどね」 「何なんだよ、それ」 「まあ、私が注意をするからいいんですけど」 「…意味わかんないし」 一人で言って一人で納得する彼は、その事については何も言ってはくれなかった。どの道聞いても答えてはくれないだろう。だから、自分から聞いて見ることにする。 「…ジェイド、俺ってそんなに態度に出てるかな…」 「出ていますね」 「そ、そんなにはっきりと…?」 せめて『何が?』と位聞いて欲しかった。 自分が自覚してないだけで、そんな事になっていたなんて。それを思うとか〜っと頬に熱が上がってきた。無意識の内に好きだ好きだと振りまいていたなんて。 「そんな事、今更とぼけても仕方がないでしょう?貴方の場合、ばっちりと、そりゃあもう『俺ってジェイドが好き好き』オーラが出まくりで、私としてもこりゃあまいった可愛い奴め的現状なんですが」 「そんなに!?」 困ったような顔をする彼の肩を、思わず掴んで揺さぶる。すると揺さぶられながら彼は眼鏡を押し上げつつ、 「…と言うのは冗談で」 「からかうなよ!…って、うわ、わ…?」 肩を揺さぶるこちらの手を取ると、その手を背中へと逃がして体をずいっと前に寄せてくる。真下からすくい上げられるようなそれを避ける事が出来なくて、気付けば背中もすくわれてベッドに押し倒される。足だけが、床に宙ぶらりんの状態で残っていた。 「―――まあでも、分かる人には分かるって感じでしょうかね」 「?」 「元々、信頼する人間に対しては懐く傾向があるみたいですし、それを厚意と取るか、好意と取るか…それは貴方に寄せる感情によりけりなのでしょう」 「????」 見下ろす彼が、淡々と告げることの意味を理解できない。視線で説明を求めると、彼はにこりと笑い、こう言い放つ。『こうい』と『こうい?』の意味の違いって何なのだろうか。 「つまりは…私は貴方の言動のすべてから、私に対する想いを感じているって言う事ですよ」 「それって…」 「常に好かれていると、愛されていると感じる。…自惚れですか?」 吐息が触れるほど近くなった距離で、彼の目を見つめる。今度の笑みは瞳にも反映されていて、言っている事が冗談ではないのだとさすがに分かる。 ―――自分の気持ちを、彼は分かってくれているのだと。 そこに思い至ると、更に顔に熱が上がった。耳が熱くて、それなのに視線が外せなくて。 「…自惚れじゃない、と思う…」 それしか言えなかった。 「良かった」 「っ」 本心から笑う彼の笑みは、何処か少し幼い事を知っているのは自分だけなのだろうか。 降ってきたキスを受け止めて、顔にかかる髪を掴む。 ―――この人が自分の大好きな人。こんなにも好きすぎて、いつか自分は誰にも隠せなくなってしまうに違いない。 「―――…それにしてもイオン様とはダークホースでしたね」 「だーくほーす?何だ、そりゃ」 「要するに、流石に見ていないところでは私でもどうにもならないので、せめてもう少し、自分について責任を持ってくださいねって事ですよ」 「…だからその意味がわかんないって」
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イオルク?
…失礼しました。
こう、ルークは絶対ジェイド好き好きオーラを放出してるに違いないんですよ。
それを懐いているととるか、そういう関係なんだと取るか。
ちなみに。
『ルークとジェイドが付き合ってる』と知っている人。
陛下、アニス、イオン、ティア
『ルークは大変ジェイドに懐いてるなあ』と思ってる人。
ナタリア
『ジェイドとルークが付き合ってる』と信じたくない人。
ガイ、アッシュ
ぐらいがウチのサイトの心意気。