「本当にルークは可愛いなあ」 「はあ…」 「なあ、やっぱあんな鬼畜眼鏡やめて、俺んトコに来いって」 +鬼の居ぬ間に+ グランコクマに立ち寄る際のジェイドの単独行動は常だ。勿論行き先は軍本部の執務室。そしてそんな外に出ている間に溜まった仕事を片付けに行く彼を迎えに行くのは、唯一の暇人である自分の仕事だった。 それなのにその途中…捕まってしまったのだ。ブウサギの散歩途中のピオニー陛下に。 『お、ルークじゃないか!』 『へ、陛下!こ、こんにちは…』 『何してんだ、こんな所で。そういやジェイドの姿がねぇなあ』 『ジェイドは仕事で、それを迎えに…』 『ああ、そんなんほっとけほっとけ。一人で帰れねぇようなガキじゃないしな。それより茶でも一緒にどうだ?美味い菓子もあるぞ!』 なんて誘いながら、既にこちらを引っ張っていたのは誰だったか。 もちろん一国の主のお誘いを断れるなど出来る訳もない。というわけで、半ば強引にこの場にいる自分を、何が楽しいのか彼は熱心に口説いている。 最初は戸惑ったが、ジェイドいわく気に入った物は何でも欲しがるとかで、あまり真に受けない方がいい、と言うことらしい。けれども無視するわけにもいかず、こうしてお茶の相手をする現状にあった。 「しかし可愛いルークを置いて仕事とはつまらん奴だな。出会ったのが俺のが先だったら、間違いなくお前は俺に惚れていたに違いない」 「あ、ははは…」 何処まで聞き逃していいのか、判断に困る会話だ。ピオニーは自分とジェイドの関係に気付いていて尚、こう言ってくるのである。ジェイドの言う通り、気に入った人間にはとことん軽々しい彼なだけに、何ともツッコミ切れない。 確かに強引ではあるものの、話は面白いしこちらを飽きさせない話術は巧だ。懇意にしてもらえる分には、とても頼もしくもある。それでも自分には、嫌みで鬼畜で冷たい…けれども一応優しい所もある彼しかないのだけれども。 「あいつもこれくらい可愛いげがありゃーなあ」 「そ、それはいくらなんでも…」 可愛いげのある彼、なんて代物は想像出来ない。出来たとしてもそれはもう、自分の知ってるジェイド・カーティスではない。 ―――ああ、でもそう言えば。 「あの、陛下。少し聞いてみてもいいですか?」 「ん?なんだ、何でも聞いてくれ」 「陛下はジェイドと…幼なじみだったんですよね?」 「ああ。他にはネフリーにサフィールもな」 サフィールは確か、死神ディストの本名だ。その彼とジェイド、ピオニー、そしてジェイドの妹のネフリーが幼なじみだとは、既に知っている。けれども自分が聞きたいのはそんな事じゃなくて…。 「―――ルーク、お前…昔の事が聞きたいのか?」 すると、ふと、何かに気付いたらしいピオニーの口調が、真面目なものになる。はっとして彼の方を見やれば、さきほどまでの笑顔が打って変わり、見たこともないような真剣なまなざしの彼がいて。 「その事、ジェイドには聞いたのか?」 「え、あ…ジェイドはあんまり話してくれないんで…」 聞いてはいけない質問だったのだろうか。そのあまりの変わり様にどきどきして答えれば、ピオニーは足を組み替えて言い放つ。 「じゃあ俺が話しちまっても駄目だな。そう言うのは本人の口から聞くべきだろう。俺が話していいことじゃあ…」 「あ、違うんですっ。そういう真面目な話じゃなくて…」 「?」 その言葉を聞いて、どうやら勘違いされていたらしいことを理解し、慌てて訂正した。自分は別にジェイドが話してくれない、彼の過去をピオニーに聞きたいわけではないのだ。 もっとそれより、知りたい事がある。 「じゃあ…何が聞きたいんだ?」 「あの、俺…ジェイドって昔どんな子供だったのかなあ、なんて…知りたくて」 聞きたい事は、そんな単純な事だった。 いつもあんなにも自分を子供扱いして、可愛がってくる(色んな意味で)彼の子供の頃の様子。 「なんかものすごく天才で、フォミクリーを開発したとかは聞いたんですけど…」 子供の頃の彼というものは、人の口からも彼自身の口からもあまりいい話を聞いた事がない。ならせめて、他とは違った視線でいそうなピオニーなら、と思って聞いてみたのだが。 「なんだ。ルークはジェイドがどんな子供だったのか聞きたいのか」 「はい」 ふ、とピオニーの視線が緩む。それがくすぐったいような柔らかな視線で、思わず見つめられるのが恥ずかしくなってしまう程。 「まあそうだな、好きな奴の事だったら気になるよな」 「…っ!」 「羨ましいな。俺もルークに自分の過去とか気になってもらいて〜」 指摘され、今度は違う意味で恥ずかしくなった。思わず真っ赤になってうつむくと、突然降ってきた手に頭をがしがしと撫でられる。 それでも知りたかった。彼は自分の事は何でも知っているのに、自分は彼の事をほとんど知らなくて。自分よりもずっと彼と付き合いの長いピオニーは、きっと自分以上に彼の事を知っているのだろう。 それが羨ましくて…少し…。 「よし、ここは一つ俺とお前の仲だ。俺しか知らないようなジェイドの子供の頃の丸秘エピソードを聞かせてやろう!」 「ま、丸秘?」 「そうだ。あれはなあ、俺がジェイドと……」 頭から手が離れ、ピオニーがこちらの思惑など気付きもしないような様子で楽しそうに昔話を始める。 ―――…が、その声は言い始めてすぐに止まった。視線は自分の背後で固定されている。 と、その時。 「アフタヌーンティーとは、優雅ですねぇ」 「っ!!」 ぽむ、と背後から肩に乗った手に、びくりと体は大きく跳ね上がる。気配がまったくしなかった。入ってきた音すら聞こえないほど。 自分の背後に立つ彼はそのまま、ずい、と体を折ってこちらの顔を覗き込んでくる。 「ルーク、探しましたよ。迎えの時間になってもやってきてくれないものですから」 「あ、は、はは…ごめんなさい」 とりあえず謝っておいた。例え最初は引きずられてこの部屋に来てしまったとしても。 けれども彼は呆れたような溜息をついて見せ、ちろりと正面のピオニーを見やった。 「まあ、恐らくは陛下に召し上げられた、という感じでしょうが」 察しのいい彼は、自分が言わなくても状況を分かってくれたらしい。 その事にほっと胸を撫で下ろす自分に、けれどもピオニーはまったく悪びれた様子もなく笑った。 「召し上げたとは聞こえが悪いな。暇人同士、茶を嗜むのも悪くないだろ」 「ルークは私を迎えに行く、という使命があったんですよ。大体、陛下も暇人ではないでしょうに…それに」 かちゃり、と眼鏡を押し上げる音がすぐ傍で聞こえた。 「人のいない場所で勝手に昔話をされては困ります」 ―――やっぱり。 「いいじゃねぇかよ、けちけちすんなって。大体ルークが知りたいっつってきたんだからな」 「!!」 「………ルーク」 それを言って欲しくなかった。そろりと上を見上げると、彼の赤い目が眼鏡越しにこちらを見下ろしていて。 「――――…」 さーっと背筋に冷気が降りていくのを感じた。自分は平気で嘘をつくくせに、こちらがこそこそと隠し事をするのを彼は嫌う。普段はそれをずるいと思うものの、事が事なだけに今回ばかりはこちらのが後ろめたい。 これはもう、後でお仕置き決定だろう。と、聞かずとも理解して落ち込む。 「おいおい、勘違いすんなよ。ジェイド」 けれどもこの不穏な空気に、まるで場違いな明るい言葉が差し込む。 「陛下」 「ルークはなあ、もっともっとお前の事が知りたくて、俺に『ジェイドの子供の頃を教えて、陛下(語尾がハートマーク風味)』ってお願いしたんだ」 「微妙に貴方の言い回しが気になるのですが…」 「間違ってないだろ。可愛いじゃないか。好きな奴の事もっとたくさん知りたいなんて。な、ルーク?」 「え!?」 いきなり話を振られて驚く。肩に手が触れて見上げると、伺うような彼の顔があって。 「そうなんですか?」 「う…うん」 聞かれて、…恥ずかしかったが頷いた。 「―――そうですか」 彼はもう怒っていないのだろうか。素直に頷いたことでふ、と表情が優しくなった彼がこちらの頭を撫でる。 「そう言う事は陛下にではなく、私に聞きなさい。大体この人の言う事は脚色が多すぎて、何処まで真実なのか分かりもしない」 「面白おかしくって言えよ」 「どちらも同じです」 ぴしゃりと言われ、それでもピオニーは何処か楽しそうだった。 結局聞けずじまいに終わってしまった彼の子供の頃のエピソード。そういう時は自分に聞け、と言う彼だが、果たしてピオニーが教えてくれようとしていた話を話してくれるとは思えないのだけれども。 「聞けば、ジェイドは教えてくれるのか?」 おずおずと尋ねれば、そうですね、と彼は笑う。 「ベッドの寝物語代わりにでも教えてあげますよ」 「寝物語?」 聞きなれない単語に首を傾げると、気が付けば正面で楽しげにしていたピオニーが、半目になってジェイドを睨んでいた。 「…お前なあ、よく俺の前でそういう話出来るよな…不敬罪で議会送りにしてやるぞ」
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ジェイルク>>ピオルク
ピオルク好きなんですが、読み専ですね〜。
てなわけでウチの陛下は報われませぬ…。
ジェイドとルークの関係を快く思っていてくれるんだけど、
もし何かあったらかっさらうぞ〜的立ち位置だとよいと思います。
常にジェイドにあて付けられてるに違いない。