「キレイな金色だなー」

「おや、どうしたんですか。その蜂蜜」

 

+愛情奉仕+

 

 そうやってランタンの明かりにかざす、手の平に収まってしまいそうな程小さな小瓶。愛らしく赤いリボンを結われた口はコルクで蓋をされ、中にランタンの明かりを受けてとろりと輝く、黄金色の液体が詰められていた。

「買い出しに行ってたティアに土産でもらった。エンゲーブ産でいい匂いのするナントカって花の蜜なんだってさ」

「へえ、どれどれ」

「ん」

 手を差し出せばあっさりとこちらへと渡してくれる。手書きのラベルが貼られた小瓶には、花の名前が記されていた。

「あぁ、これは上等な蜂蜜ですね。白くて小さな花だから取れる量が少なく、結構貴重なんですよ」

「え、高いのか?」

「まあこの程度の量なら、小遣い程度の小銭でも十分買えるでしょう」

「ふーん」

「貴族のご婦人方の中では、痛んだ髪にいいと、これで洗髪をされるとも聞きますね」

「もったいねー」

 その他にも、一昔前では万病にも効く秘薬だとか言われていたり、それはただの作り話だが蜂蜜自体は薬効が高く、消化もいいから病中の栄養補給にいいと、記憶している知識を彼に与える。そのたびにほー、とかへー、など感嘆の声や感想を述べる彼を見ていると、まるで教師にでもなったかのようだ。

「ジェイドってやっぱ色んな事知ってるなー」

「伊達に年は食ってないですからね」

「嫌味かよ…でも、ふ〜ん…蜂蜜って薬にもなるんだ」

「まあ今では主に嗜好品ですけどね。パンケーキにつけて食べるのが無難でしょう」

 小瓶の中の蜂蜜は傾けるととろりと中で流れる。見るからに甘そうで、お子様舌の彼が好みそう気がした。

「でもパンケーキはここにはないしな…」

「おや、せっかくもらった物をもう食べてしまうつもりだったんですか?」

「だってこんなに小さいし、持ってても無くしちまいそうだもんな…だったら食べちゃった方がいいかも」

「ふむ。貴方ならすぐなくしてしまいそうですしね」

 言ってやれば、自分でもそう思っているのか黙るだけでこちらに怒っては来ない。実際彼に物を任せるとよく無くすので、私はおろか、ガイですらあまり物を持たせようという気はいないようなのだが。

「い、いいんだよっ。もう食べちゃうから!あんまり言うとジェイドにはやらねぇぞっ」

「私にもくださるんですか?」

 あまりいじめ過ぎてスネさせてしまっただろうか。けれども尋ねればうっと声に詰まり、

「お、俺だけ食べるワケにもいかないじゃん」

 と口の中でもごもごと告げる。

(可愛いものだ)

 こんなにもいじめる自分を、それでも慕ってくれるとは。だからこそもっといじめ…もとい、可愛がってやりたくなる。時にいじめて、時に思いっきり甘やかして。もっと自分に夢中になるように、逃げられなくなるように。

 幼い子を罠にはめるのはひどく罪悪感と、甘美な嗜虐心にさいなまれる。己をセーブするのが最近はつらいほど。

「あ、でもスプーンも何もないか…借りてこようかなあ」

「その必要はないですよ」

 いじめたお詫びに、少し甘やかしてやるのがいいだろう。

 ジェイドは彼の隣に座ると、寄ってくる彼の目の前で小瓶のコルクを小気味よい音を立てて引き抜いた。すると鼻孔をくすぐる、甘い蜜の香り。その匂いにつられたのか、ルークが傍までやってきた。

 そこで、自分は。

「これは上物だ」

「?…あ!」

 ゆっくりと指先が入るのを確認すると、彼が声を上げるのにも構わず人差し指を小瓶の中にと差し入れる。

「な、何するんだよ…」

 この状況でそのセリフは間抜けだ。

「スプーンなどなくても、私が食べさせてあげますよ」

そのまま中でくるりと指を一周させると、再びゆっくりと引き抜く。見ると指先にたっぷりと黄金色の液体が付着し、まるで自分の指ではないみたいだ。

それを彼の目の前へと、差し出す。

「さあ」

「信じらんねぇ…」

「貴方が食べないなら、私が頂きますが?そうでないと垂れてきてしまう」

「う…」

 もう既に雫をゆっくりと作り始めた指の腹の辺り。彼はじっとその辺りを見つめていて―――…。

「…っ……」

 意を決したのか、いきなりぱくっと指を咥えてきた。もう少し色気のある咥え方があってもいいと思うのだが、まあこれでもよくやった方だろう。

「ん……」

 遠慮がちな舌が、ちゅ、と吸い付くように指にまとわり付いた蜂蜜を舐めとる。その時の柔らかな舌の感触は、キスをするときに味わうのとはまた違う。どこかこちらを伺うようにたどたどしく、けれどもすべて舐めとろうとする為におろそかにするわけにもいかなくて。ちゅ、と吸い付いては、小さく喉が唾液と蜂蜜を嚥下するために上下する。

 さながら、自身をそうされていると錯覚するほど淫猥で。

「ふ…ぁ…」

「…よく出来ました」

 綺麗に舐めとってくれたであろう指を引き抜く時、少し擦るように指の腹で彼の舌を撫でてやった。確認すると、指先に付着していた蜂蜜は、綺麗に舐めとられている。ただ指先に、彼の舌の感触が残っていた。

「さて、それじゃあ私も頂きましょうか」

 ニコリと笑いかけ、再び指先に蜂蜜を少量だけ拭い取った。そしてまた同じ事をするのかと、上目遣いにこちらを見上げる彼にその指先を伸ばし…唾液に濡れた唇にそれらを拭いつけた。

「そのままで」

「ジェイ…っ」

 あまった指先の分は自分で舐めとり、すぐさま彼の顎を捉える。そして唐突なこちらの行動に動けないでいる彼の上唇を舐め、そのまま口付けた。

「…ん、ぁ…!」

 ―――甘い。

 ただでさえ甘ったるいキスが、蜂蜜のおかげで砂糖菓子のように甘い。このまま食べてしまおうか、キスから先も、全部。

「ぅ…はぁ…、あ…」

 唇だけではすまなくなり、顎を捉えていた手を耳の裏まで滑らせて、貪る。

(何処もかしこも甘いですね…貴方らしい)

 今だキスの最中に鼻で呼吸をすることの下手な彼は、続けざまに深くなるキスにずるずると崩れていく。それを追いかけるように覆い被さって、片手で慣れたよう、彼の上着をくつろげてやった。

 そしてシャツをめくり上げ、手にしていた小瓶を傾け―――。

「…は、…ぁ、ジェぃ…ド…?」

「この甘さ、クセになりそうですよ」

「…ぁ―――」

 出会った当初よりもやや色の濃くなった肌に、黄金色の液体を垂らす。それは浮き上がった筋肉の筋に触れ、流れて。シーツに零れてしまう前にキスを落とす。

唇でたどり、舌で舐め取って…。

 

「―――甘い、ですねぇ…蕩けそうだ」

 

 鼻孔に甘い匂いが染み付く。

それは彼自身の甘い匂いと混じり合って…最後の理性と共に、脳髄を甘くしびれさせた。









うわぉ。必殺どさちゅん。
柊の得意技の一つですよ…続き書きたいけど、その内。

舐める大佐ってのが書きたかった。
ストイックっぽいから絶対エロい。
ルークの舐めは何だかちょっと調教って感じですよね…(イッてこい!)