「ルークぅ、あんな陰険眼鏡なんてやめて、俺んトコこないかー?」 「は、はあ…」 「―――陛下」 +痛い愛+ 「ご公務に差し支えるようなので、我々は是非とも、さっさと、出発したいと思うのですが」 「え〜。いいじゃねぇかよ〜ぅ。たまには俺もルークと遊ばせろよ〜ケチ眼鏡」 「…陛下」 「ジェ、ジェイド〜」 定期的に行う現状確認、および報告のための謁見だった。これはキムラスカ、マルクト両国変わらぬペースで行っている事であり、自分たちの行動が既に世界規模となっている現状、けして怠れないものになっている。 その為に訪れた、帝都グランコクマ…王宮、謁見の間。そこで久しぶりに謁見したピオニーに、いつも通り彼が現状報告を成す。他の仲間は出立の準備で街に出ている為、付き添いは自分だけ。とはいっても特に出来ることも無いので、形だけキムラスカ王家代表、といったところだろうか。 それが―――朗々たる彼の報告を聞き、謁見を済ませる…ただこれだけの仕事だったはずなのに。 「ルークが俺んトコ来てくれるなら、キムラスカとか永久平和条約結んでやってもいいのに」 「陛下、冗談でも軽々しく口に出来る言葉じゃありませんよ」 『ルーク。ちょっとこっちに来い』 『?』 呼ばれて近寄れば、有無を言わさず捕まった。一国の国王陛下のお膝の上に。 それからというもの、皇帝陛下とその懐刀による攻防は、静かに繰り広げられている。とは言うものの、ジェイドの方が立場が悪く、あまり強く言えないようだった。 …が、危険な空気を滲み出しているのは言わずとも分かる。自分を膝の上に乗せてそれを飄々とかわしているピオニーは、さすがというか何と言うか。 「ジェイド、お前の物は俺の物って言葉知ってる?」 「それは貴方が皇帝陛下である以上、私の持ち物は貴方のものでも構いません。…が、彼は私の持ち物ではありませんし、何よりキムラスカ王家の縁者たる者。戯れでも好き勝手していいものではありません」 (何かさりげなくもの扱いされた…) 腰の辺りをぎゅうと拘束されている身では何も出来ず、かと言ってこの間に平気で入っていく自信はない。ピオニーはちょっと強引で苦手だが、そんなに嫌いではないので好かれるのは嬉しいと思う。だが目の前で眼鏡の中心を押さえ、上目遣いに見やる彼の視線を受けると、それを言うのは大変はばかられた。 「え、え〜っと…」 「陛下」 そこに新しく入ってくる者がいた。 「陛下、次のご公務が滞っております。至急お着替えを」 どうやら側近の一人らしい。するとさすがにえぇ〜と不満を漏らすものの、意外とあっさり解放されてしまった。 「ち、仕方ねぇなあ」 「あ、あの…」 「ルーク」 呼ばれ、びくりとする。 (うあああ…機嫌悪そう…) 彼にしては珍しい反応だ。全開の笑顔が逆に黒く見える。 「おい、ルーク。そいつに飽きたらいつでも俺んトコ来いよ」 「陛下、お早く」 「また遊びに来いよ〜」 けれども慣れているのか気にしないのか、ぽん、と最後に頭に手を置いてピオニーは騒がしく退室していく。残されたのは自分と、彼だけ。 びくびくして彼を上目遣いに見上げると、ふと、彼が珍しく溜息をついた。 「まったく…昔から私のものを何でも欲しがる」 「ジェ、ジェイド」 「何もされませんでしたか?と言うか膝の上に乗せられた時点で十分、『何かされた』に値する行為ですが」 「ほ、他は何もされてない」 ぶるぶると頭を左右に振ると、そうですか、と彼は頷く。と言うかやっぱり『私のもの』って言っている。やっぱり自分はジェイドの物なのかなあ、ともの扱いされるのを不思議に思う反面、彼自身のものだと彼の口から言われるのはちょっと嬉しかった。 そんな事をぼや〜っと思っていたら、 「それにしてもルーク」 「え、は、はい!?」 いきなり呼ばれて驚く。するとずい、と指が突きつけられ、彼が一歩こちらに詰め寄った。 「…貴方も貴方です。警戒心がまったくない」 「け、警戒心?」 思わず一歩下がる。するとその一歩分彼は歩を進めてくるが、彼の方が歩幅が広いために先ほどよりも距離は縮まってしまう。その為半ば上から覆いかぶさられるような体勢で、彼はルークの額の中心に指先を押し当てて言った。 「貴方は貴方に好意を持つ者に対して、いつだってほぼ無防備なんですよ。呼ばれればほいほい付いて行ってしまう。まるで母親に手を引かれないとまともに歩けない子供のようにね」 「そ、そういう言い方はないだろ」 「的確な例えだと思いますが?きっと美味しいお菓子を上げるから付いておいで、とか言われたら付いていってしまうんですよ、貴方は」 「………」 そこまで自分は子供だろうか。それだって流石に相手にもよると思うのだが、ここはあまり反論しない方がいいのかもしれない。いくら幼馴染とは言え、ピオニー相手では強く言えないジェイドの鬱憤は、相当溜まっていそうだ。…主にさっきの数分で。 だからここは一つ。 「ご、ごめんなさい」 謝っておこう。 そう思って上目遣いに口にすれば、彼は額に押し当てた指を離して、その指で眼鏡を押し上げると溜息をついた。 「まあ、それも貴方のいいところなんですけどねぇ」 「…はあ」 怒られてるのか、褒められてるのか、分からない。 親しかったり、好意を持ってくれる人間を良く思うのはよくなくて、けれどそこが自分の長所で。確かに好意を持ってくれる人はあまり悪く思えない。それは仲間たちもそうであるし、何より彼自身に対してそうであるとも思う。 (陛下とかは駄目で、ジェイドならいいのかな…) 彼はそう言いたいのだろうか。もっとも、それを聞けるような状況ではないのだけれども。 すると不意に彼が笑った気配があった。ふと伏せて考えていた顔を上げると、彼はこちらを見てにこりと笑っていて。それは先ほど見た、笑ってるのに笑っていない顔。 ルークの中で、けたたましく警鐘が鳴り響く。 「―――自覚が足りないから、でしょうか。これ以上、あまり私に心配をかけるようなら…」 「?」 唐突に、ぬっと彼の手がこちらに伸びてきた。その時思わず体が逃げようとするのに間に合わず、触れられたのは…首。 手袋をはめた彼の指の長いの大きな手に、まるで首を片手で絞めるよう、掴まれた。その指が筋の辺りを撫でつつ、彼の顔は近づいてくる。そして耳に囁かれた、思いがけない言葉。 「―――この首に首輪と鎖でも繋ぎましょうか」 一瞬、わが耳を疑った。 「……ジェイド?」 「…それとも誰にも分からない、私だけの秘密の場所に貴方を隠してしまいましょうか?」 「…ぁ…!!」 ぞくり、と背中に悪寒めいたものが走って体が揺れ、思わず膝が崩れたルークは彼にしがみつく。それでもへたり込んでしまいそうで、彼の服を皺が深く刻むほどに掴み、その肩口に顔を埋めた。 それほどまでの言葉の威力。この耳からじわりと頭の中を犯すような甘く、毒めいた言葉が、彼の本心からなる言葉なのだろうか。それは怖くて、とても自分には想像も付かないような意味を持った言葉だった。 けれども…。 (そうまでジェイドは俺の事…) その甘い毒に、頭の中がクラクラする。自分はやっぱりちょっとおかしいのかもしれない。彼の言葉は足がすくむほど怖いものなのに、それが嬉しいなんて―――。 崩れてしがみつく自分を彼は抱き、くすりと耳に吐息を吹きかけるように笑った。 「―――そう言ったら、貴方は自覚してくれますか?」 その元に戻った声音に、やはり安心する。 「や、やっぱ冗談だよな…?」 「冗談?…そうですね…」 一瞬あんな事を思ってしまったけれど、それは出来るわけもないこと…出来るはずもないこと。また彼の本気のような嘘に振り回されてしまっただけ。 それなのに、彼は。 「貴方が望むなら、いつだってご用意差し上げますよ」 「ジェ、ジェイド…!」 「―――だから、ルーク」 「…っ」 カリ、と耳たぶを軽く噛まれて驚く。そのかすかな痛みは、さきほどの言葉の毒を思い出すようで。 「その気があったらいつでもおしゃってください、ね?」 「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」 言わない。そんな事は絶対口にしない。 例え、本心ではその毒を心地よく思っていても―――言ってしまったら自分はきっと、逃げられないのだから。
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やったー言〜わ〜せ〜た〜!
ジェイドにあの台詞が言わせたくて言わせたくて。
ようやく言わせられる話がかけました。
鬼畜と言えば、「首輪」「鎖」「監禁」じゃないですか!?
断髪後ルークってちょっとMっぽいので、そんな鬼畜眼鏡の台詞にゾクゾクしちゃうに違いない。
★自己満足★