「ルーク」 「な、何だよ」 どうにもおかしいと思った。だが真っ向から聞いても彼のことだ、けして話しはしないだろう。 そういう時は…強行手段に出るにかぎる。 「服を脱ぎなさい、今すぐ」 やせ我慢 「なっ、いきなり何言い出すんだよ!?」 「言葉そのままの意味です。服を脱ぎなさい…それとも、脱がして欲しいのですか?」 案の定唐突なこちらの要求に、彼は素直に応えようとはしてくれなかった。だがそれだからと言ってこちらも素直に「はい、そうですか」とは言えない。 「仕方がないですねぇ…」 「え、ちょ、うわわっ、ジェイド…ッ!」 言って聞かないのであれば、行動で言う事を聞かせるのみ。 ジェイドは全方向で警戒するルークとの距離を一瞬で縮めると、まさか正面から来るとは思わずに不意を打たれたルークの足を払い、こけさせる。…が、その体が床に崩れる前に腕で肩と膝裏を支え、立ち上がる前にすべてを抱き上げた。 ―――それはいわゆるお姫様だっこ。 「お、下ろせよっ」 「駄目です。素直に言うことを聞かない貴方は悪いのですよ?」 抱き上げられ、ルークは足をバタつかせて暴れる…が、どこかその動きは遠慮気味だ。その様子を見て、ジェイドは思わず溜息をついてしまう。 「隠していても誰の為にもなりませんよ、ルーク」 「……隠してることなんて何も…っ」 言うことを聞いてくれない幼子に言い聞かせるような口調で言えば(事実その通りなのだが)、彼は口を噤んでしまった。そんな彼に今度は苦笑して、ジェイドはベッドまで運ぶ。そして大人しくなった彼をその縁に座らせると、丁寧に、けれども素早く上着とシャツを脱がせてしまった。 そしてもう一度、深い溜息をつく羽目となる。 「…ルーク。これは黙っておくべきものではないでしょう」 「だって…」 飛び込んできたのは、目にも痛々しい左肩の青あざ。くっきりと大きく丸の形をしたそこは、恐らく今日の戦闘で作ったものだろう。ジェイドが気付いたのは夕食の時。左手で持っていたフォークを落とした時に、わずかに彼が顔をしかめたからだ。 「状態を診るために少し触りますよ。痛むかもしれませんが、自業自得です。我慢してください」 「……っ!!」 こちらの真剣な様子にさすがにしゅんとするルークだが、ジェイドがそのあざに触れた瞬間、びくっとして顔を痛みにしかめた。だが今まで自分に内緒にしておこうとした浅はかな彼への罰として、それを気遣うことはしない。それよりも今は状態を診ることの方が重要だ。 「…ふむ」 それでも慎重に診てやれば、どうやら骨には異常がない事が知れた。 「打ち身ですね。あざが大げさに大きいですようですが、これならティアかナタリアの譜術で簡単に治るでしょう」 「…………」 大した事はない、と言ってもこれだけ立派な青あざを色々触られたのだ。相当痛かったらしいルークは声一つ上げなかったが、さすがに堪えていたために目頭に涙が溜まっている。 「貴方という人は」 その様子に自業自得だとは思いつつも、ジェイドは顔を覗き込んで目頭の涙の溜まる場所にキスを落とした。 「それほど痛むのを、どうして我慢していたんですか?ただの打ち身だから良かったものを、ひびや骨折じゃあ笑い事にならない」 キスは与えるものの、言葉はまだ少し彼を責めたものになる。本当にその通りだ。隠して利になることなどなにもない。 すると彼はますます俯いて、ふい、とこちらから視線を反らしてまでして呟く。 「だって…だせぇじゃん。たかがこの程度の怪我でヒイヒイ言って、回復してくれ〜ってティアたちに頼むの…」 「ルーク」 「ただでさえ、かっこ悪いとこばっか見せてんのに…」 「………」 まるっきり子供の理屈のそれだ。呆れる反面、彼の内面の幼さから見れば納得のいく返答でもある。周りに散々無知扱いされ、子ども扱いされ、背伸びをしたくなるのだろう。 大人は他人にかっこ悪いところを見せない。何でも一人で出来る。 けれどもそれは子供の考え方だ。 「かっこつけるばかりが大人ではないですよ。時に自分の弱さをも受け入れることが出来るのが、大人というものです」 大人だって、所詮一人では何も出来ないのだから。 「それに、このまま黙っていたのでは皆にも迷惑がかかりますよ。誰も貴方の不調に気付かないのでは、有事の際の対処に遅れが生じることもあるでしょう。こういう時は素直に人を頼りなさい」 もう夜も遅く、ティアたちを起こすのは忍びない。何より黙っていたのはルークだから、一晩くらいはこのまま我慢させた方がいいだろう。 だが、 「それに、私くらいには正直に話して欲しいものです」 言いながら離れ、荷物の中から薬と包帯を取り出す。そしてルークの前に膝をつくと、ガーゼに薄緑色の軟膏を薄くのばし、それを患部に当てて包帯を丁寧に巻く。応急だが、痛みを多少和らげてくれるだろう。骨折もしていないので熱も上がることもないだろうし。 手早くそれらを処置し、今の自分に出来る最良のことを済ませる。こんな時、自分が回復の譜術を使えないのが少し歯がゆい。理論は理解しているのだが、生死という概念に関して欠落のある自分では人を癒す術を使うことが出来ないらしい。 だから、今やれる事をする。少しでも彼が今夜安らかに眠れるように、最良の努力を。 「…ごめん、ジェイド」 すると、黙ってその作業を進めていたジェイドを見つめていた彼が、不意に謝ってきた。その言葉に一瞬ジェイドの動きが止まるが、すぐまた包帯を巻く手を動かし始める。 くるくる、くるくる。 少しでも負担のないように、反対の脇まで包帯を回して固定して。 「まあ、手のかかる子ほど可愛いと言いますからね」 溜息と同時に呟いて、作業を終える。そしてこの状態で彼に元の服を着せるわけにも行かず、自分の替えのシャツを与えた。少し大きそうだったが、包帯を巻いているのでこれくらいのが丁度いい。 「眠る時も少し痛いでしょうから、体の左側に枕を差し込むといいでしょう。薬は患部の消炎の効果しかありませんから、痛み止めも飲むようにして…」 「あの、ジェイド…」 てきぱきと就寝の準備を進めるジェイドに、ほとんどしゃべらなかった遠慮がちな声が呼ぶ。さすがに手を止めてそちらを見れば、年の割りに大きな目がこちらを見ていて。 「…ありがとう…」 こちらと目が合うと、申し訳なさそうな、それでも嬉しそうな顔で言うものだから。 (普段からこれくらい素直だったら…いや、少し反抗的なくらいが私のタイプですね) 「―――もう私には隠し事はしないでください、ルーク」 そう咎めて、鎮痛剤を渡すついでにキスを与えた。
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断髪後ルークは結構やせ我慢とかしそうです。
子供だから、見た目のカッコよさにこだわったりとか。
けどジェイドはそんなことお見通しで!
ルークは普段から生傷が絶えないキャラがいいなあ…
それを文句を言いながらも手当てするジェイドに萌えます。
断髪前ルークならもう大げさに「いてー」とか「疲れた〜」とか文句言いそうですけどね(笑)