ふと思う、口寂しさ。

 指先で触れるだけでは満足できない欲望。

 そこをちょうど通りかかった、愛しい彼。

「ルーク」

「何?…って、おい、ちょっと…ん…!」

 呼び止めて、抱き寄せて、吐息を奪った。

 

+ズルイ大人+

 

「ん、ん…ふぁ…」

 片腕で腰を抱き、もう片方の手で顎をすくいあげるようにして上を向かせる。すると唐突な事に動揺する手が、何とかこちらの体を突っぱねようと必死になるが、構わない。戦慄く唇を割り、奥に為りを潜めていた舌を引っ張り出す。彼はキスが下手だから、深いキスになればもう逃れることが出来ない。絡める舌に吐息すら奪い尽くし、腰に回した腕により体重がかかる。

…もう、自分の足では立っていられないらしい。

「…ふ、ぁ…ん…」

「……ふ……」

彼の唇がとろけそうな熱を得た頃、ジェイドはゆっくりと彼を解放した。すると案の定ルークは立つ事は出来ず、くずれるようにジェイドの足元に膝を折る…のを、

「おっと」

ジェイドは抱きかかえて留め、自分がさきほどまで座っていた椅子に彼を座らせた。

「この程度で腰が砕けるとは…可愛いモンですね」

「おま…っ、いき、なり…!」

舌が痺れてうまく喋れないのだろう。赤い目元、濡れた唇、そして舌足らずな喋り方では怒っていても何の迫力もない。むしろ可愛いくらいだ。あまり可愛いと、またキスがしたくなると言うのに。

 けれどもそんなジェイドの考えていることなど知らず、彼は不平と不満を口にし続ける。

「大体呼び止められたら一体何、って思うじゃん…それなのにいきなりキスってのはないんじゃ…」

「―――私がキスをしたことを、怒っているのですか?」

 だから唐突に、尋ねてみた。

「私とキスするのが嫌だったですか?」

「!?」

 繰り返して言えば、彼はびくりと肩を震わせた。けれども視線を幾度かさ迷わると、怒っていたはずの顔を恥ずかしさにみるみるうちに真っ赤にして、

「…嫌じゃ、ない…」

 小さな声で呟く。

「ジェイドのキスは…好きだ」

 ぎゅう、と服の裾を掴まれた。

「では、どうして?」

 優しい口調で、けれどもその先を促すことは、少し残酷なのかもしれない。だってこれは、ルークの言葉で自分の唐突のキスを正当化しようとしているのだから。

 それなのに、

「―――ジェイドのキスは気持ちよくて、体がふわふわして、頭ん中がジェイドの事でいっぱいになるのに…いきなりだと最初からわかんなくて、必死になっちゃって、何が何だか分からなくなって…」

 けれども彼はその思惑にも気付かず、己の思うままを話す。

「何も分からなくなるのは…嫌だ」

「…ルーク」

 ルークが自分とのキスが好きなことなど、当に承知している。体はともかく、まだ何処か子供っぽいところの抜けない幼い彼にとって、キスというものはもっとも簡単で、分かりやすい愛情の示し方なのだ。

 その先の行為にはなかなか慣れずとも、キスだけは自分からねだることすらするのだから。

「も、もういいだろ!だから、突然キスされると…困るんだよ」

 まさかこんな事まで言わされるとは思っていなかった彼は、耳まで真っ赤にすると足の間に手を挟んで俯いてしまう。

(少し、ずるかったですかね)

 そんな様子を見ると、苦笑してしまった。もっとも、ルークの自分とのキスに対する考えが分かって、いい収穫もあったのだが。

「分かりました。ルークは、本当に私とのキスが好きなんですね」

 ジェイドはルークの前に膝をつくと、その顔を覗き込んで確認するように言った。もちろん、それで彼が大いにうろたえるのを知っていて。

「うっ、いや、あの、その…」

 案の定彼はうろたえ、ただ口を戦慄かせるばかりで何も言えなくなってしまう。本当…ずるい大人の餌食になってしまった、可哀想な子供だ。

「なるほど、突然だと堪能できないから嫌なのか…」

「〜〜〜〜〜ジェイドッ」

「それならば」

 彼の膝に手を乗せて、前髪の奥を覗き込むように顔を近づけて。

「…今なら、キスをしてもいいですか?」

「!」

「唐突ではないでしょう?」

 吐息が触れる距離で、彼の視線がさ迷う。そして漏れた、諦めを含んだ、甘い吐息。

「お前ってずりぃ…そういうのを唐突って言うんだよっ」

 そう呟いた彼が、こちらの吐息を感じて慌てて目を閉じた。



風邪引いて頭回らんのに書いたから、頭の悪い内容ですな…。

後半を二回も書き直したので、最初考えていたネタと大分違ってますが、
(最初は大佐が自分がキスしたかったのを、ルークがキスして欲しそうだったとルークのせいにする話だった)
こっちのがラブラブでしたな…いやしかし、大佐はずるい。
きっと、いや、絶対そうに違いない。