ファフナーに乗るという事は、総士を誰よりも近くに感じるという事だ。
 どんなに離れていても、ジークフリード・システムを介してここにはいない総士をここに感じられる。ファフナーと同化で得られるファフナーそのものとの一体感とは違う。
 触れようとして触れられる訳でもない。けれどもここにいる、という安心感。
 その感覚を失ったのは三度。
 一度目は竜宮島を出た時。
 二度目はフェストゥムにジークフリード・システムごと総士を奪取された時。
 三度目は…現在進行中だ。
 誰かを、自分ではない他人をこんなにも近くに感じられる事なんて知らなかった。それが総士だから受け入れられたのは、自分にとって不思議とも何も思わない。
 総士となら、震える程恐ろしい敵にも立ち向かえた。総士だから一緒に戦えた。死と隣り合わせの世界でも、戦っていけると思った。
 ―――けれども今、総士はいない。
 ファフナーに乗る自分の隣にも、自分の部屋にも、アルヴィスの中にも、この竜宮島の何処にも。

「総士」

 主のいない部屋。がらんとしていて、物がないのは二年前と変わらない。ただ変わったのは、壁に貼られた写真が二枚になった事と、主が帰らない事。

「総士」

 呼んで、返事のないまま写真の中の二年前の総士に触れる。

「お前のいない世界はずっと寂しいよ―――だから」

 ファフナーの中にいても、アルヴィスの中にいても、竜宮島の何処にいても、誰といても。

「ずっと、待ってるからな」

 必ず帰ると約束した残滓だけが、今もずっと自分の胸の中で燻っている。


お初ファフナー。映画を観に行く直前に書きました。本編一年後くらい、かな…。

[2010年 12月 30日]