拍手第一弾その2。映画の問題の抱擁について。きっと二年間結構日常的にやっていたに違いないと私は思っている。
[2011年 2月 11日]
それはまるで、起きているのに眠っているような、白昼夢の出来事。記憶には留まらない、ただ、それを感じた後には胸の奥にはじわりと滲む温かさに、いつもどうしようもなく泣きたくなった。 『また外を見ているのか』 「ああ」 ぼんやりと教室の自分の席から眺めるいつもの風景は、今日は生憎の雨とそれがもたらした霧で霞んでよく見えない。もっとも、晴れていたとしても今の自分の目には、薄らぼんやりとしたモノクロしか映らない。けれども見えていない目に頼ることを止め、むしろ目を閉じることで再生される景色がある。 どこまでも青い海、広がる青空、四季に彩られる竜宮島―――生まれてきた時から今までずっと目に焼き付けてきた景色たち。守りたいと、守ると決意したものや人たちを。 けれども一番守りたい人は、今ここにはいない。 『すまない、一騎』 肩に熱が触れた。背後から、緩く抱きしめられる感覚は、開け放った窓から入り込んで来る冷気と対称的に、一騎の心そのものを包み込む。 「俺は待ってる…総士の帰る場所を守って」 『ああ』 「一騎くん?」 しゅるり、とすべてが解けて、記憶からも消える。 「――-遠見?」 「遅くなってごめんね。今なんか話し声がしたみたいだけど?」 「?教室には俺しかいないけど?」 首を傾げて、一騎は開け放っていた窓を手探りで閉める。これから『楽園』でバイトだ。自分一人でも行けるが、真矢がどうしても一緒に行くというので彼女の委員の仕事が終わるまで待っていたのだ。当然ながら教室には既に一騎しかいない。 誰の話し声も、一騎は聞いていない。 「そう?」 同じく不思議そうに首を傾げる真矢は、まいっか、と一騎の手を引っ張った。 「いこ」 「ああ」 繋いだ手から温かな温もりを感じる。けれどもそれとは別に、胸の奥にじわりと溶け込むように感じる温かさ。それは繋いだ先の温もりとは別物だった。
拍手第一弾その2。映画の問題の抱擁について。きっと二年間結構日常的にやっていたに違いないと私は思っている。
[2011年 2月 11日]