スウェーデン研修

 訓覇法子著の『スウェーデン人は今幸せか』と『スウェーデンの高齢者福祉』を読んで、スウェ
ーデンについて知らなかったことや、新たな発見など、この本から得るものがたくさんありまし
た。同時に、今まで私はスウェーデンについて"うわべだけの知識"でスウェーデンという国を見
ていたことに気付かされました。私の中でスウェーデンという国は、第一にやはり福祉大国だと
いう先入観があり、その具体的な内容や制度についてはほとんど知らなかったということがこ
の2冊の本によってスウェーデンという国そのものを見つめていくよいきっかけを与えてくれま
した。
 『スウェーデン人は今幸せか』という本を読んだ率直な感想は、今まで私の中に存在していた
スウェーデンという国の実体をより明確にしてくれたということです。上記のとおり、私はスウェ
ーデンについて福祉大国だという事実だけしか知らない"うわべだけの知識"でスウェーデンと
いう国をとらえていました。その内容をこの本が教えてくれてさらに広い知識を得ることができ
ました。
 まず、この本を読んで最も印象に残ったことは、今スウェーデンではベビーブームをむかえて
いるということです。先進諸国では、年々出生率の低下が叫ばれている中で先進国であるスウ
ェーデンがなぜベビーブームをむかえているのかとても不思議に思いました。しかし本を読ん
でいくにつれて、両親保険制度の拡充や育児休暇などの公的制度の整備・さまざまな政策に
よりこの結果が生まれていることがわかりました。男性の育児休暇など、男性が家庭の中に組
み込まれることと社会保障及び社会福祉政策のポジティブな影響がこの人口増加現象という
結果として成果をあげていることがわかった。
 しかし疑問に思うことは、スウェーデンでは第一子が生まれると仕事をやめ家庭に入る女性
が少なくなってきているのは分かるが、なぜ職業生活に重点をおく女性のほうが第三子を出産
する率が高いということが疑問である。日本の場合で考えると、キャリアウーマンは社会的地
位の向上によって結婚、出産の時期が遅くなり、まして子供は出産年齢ぎりぎりでの初産で一
人の子供を育てるという女性が大半である。これは、日本のように育児支援の政策が確立して
いない場合であるが、それにしてもスウェーデンのキャリアウーマンは3人もの子供を出産する
傾向があることは疑問である。価値観の違いが前提としてあるにせよ、仕事・家庭・3人の子
供の育児とバランスよくこなすのは、とても難しいことだと思います。専業主婦ならともかく、いく
ら育児政策の基盤が確立しているにせよキャリアウーマンにとっては、なおさらこのバランスを
取るのは困難に思われる。出生率の増加と女性の社会進出は、密接な関係があると私は思
います。
 もう一つ疑問に思うことは、男性が育児休暇を取ることにより社会の労働力の低下があげら
れるのではないかと思う。考え方が日本的という理由も関係するが、男性が育児休暇を取るこ
とによって社会の労働力が低下して、社会経済的問題が起こるのではないかと思う。これは、
スウェーデンでの調査研究で解明してみたい事柄である。
 印象に残ったことをもう1つあげると、スウェーデンは伝統的な平和主義の国であるということ
です。平和への努力と福祉が密接な関係にあるということを、この本を読んで特に感じました。
福祉の思想が平和を作り上げていると私は思いました。
 『スウェーデンの高齢者福祉』を読んで印象に残っていることは、高齢者は社会や生活の中
で個人として尊重され自立しているということです。例えば、痴呆症の高齢者のグループ住宅
などでは、スウェーデンでは一人一人の生活リズムを尊重しその人のためのケアが行われて
いるのに対し、日本の施設では、高齢者の人権を無視した職員の手間を省くことを目的とした
一方的なケアを行っているように感じる。
 日本の場合、高齢者の介護が家族だけでは困難になり、高齢者は一人では何もできない厄
介なお荷物なので施設にあずけてしまうというのが施設利用の根本にあると思う。しかしスウェ
ーデンでは、お年寄り本人が何もできなくなったから入るのではなく、サービスハウスに入るこ
とによってさらに自立した生活を可能にするという基盤が存在している。さらにスウェーデンの
場合、老夫婦のどちらかが介助を必要とする場合ホームヘルパーが介護をし、夫婦の自立し
た生活を維持できるようなシステムがあるが、日本の場合、即老人ホームなどの施設利用を
優先してしまう傾向があると思う。なぜ、日本とスウェーデンで、このような考え方の違いがある
のかが疑問に思います。このことも実際に自分で調べてみたい研究のひとつとして取り上げて
みたいです。
 医療・福祉・保健の統合、エーデル改革などさまざまな福祉政策の発展により、老人ホーム
のベットで亡くなるお年寄りより、自宅で亡くなるお年寄りが増えていることは、死ぬまで人とし
て尊重されるとてもよいことだと思います。スウェーデンではこのような施設型の老人施設がど
んどん減少しているのに対し、日本では逆に施設の増加や、ベット数の拡大などお年寄り一人
ひとりに目を向けない、社会的入院を増やそうとしていることに疑問を感じます。まったく逆の
政策を行っているようにすら感じます。
 もう一つの疑問は、エーデル改革による24時間体制の医療と福祉の統合による、特に夜間
のケアに対するワーカーの人手不足の問題があげられると思います。緊急時の職員確保の体
制が整えられているのかなど疑問に残る点があります。
 事前学習で詳しく調べたいと思うテーマは、主に障害者福祉について調べていきたいと思い
ます。スウェーデンの障害者は、いきいきと生活し、まるで障害がないようにさえ感じます。そ
の根元には、障害を障害として扱わないスウェーデンの価値観・福祉政策から来るものだと思
います。障害を持っていても人を人間として尊重するスウェーデンの人々の考え方を自分の目
で見て、日本の障害者福祉に取り入れていけるように多くのことをスウェーデンから学びたい
です。特に聴覚障害者の日常生活について学んでみたいと思います。日本と比較して彼らの
生活はどのように保障されているのかなど調べてみたいと思います。聴覚障害者は、他の障
害と比べて比較的健常者に近い生活を送れることから、身近な福祉を学ぶにはその制度や政
策の真の部分を障害者福祉というジャンル全体を聴覚障害から見つめることができると思い
ます。そして、この本から家族のあり方についてもいろいろな視点から詳しく調べてみたいと思
いました。日本とスウェーデンの家族についての価値観、とても興味深いテーマです。



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