下肢静脈瘤は英語ではVaricoseVeinあるいはVarix(バリックス)といいます。
下肢静脈瘤という病気は、出産経験のある成人女性の2人に1人、実に約半数の方が発症する身近な病気です。最近の調査では、日本人の約9%に静脈瘤が認められるとも言われています。この病気は静脈内にある血流を支える弁が壊れ、足の血液が停滞して溜まり、足の静 脈が極端に浮き出てきて目立つようになるもので、そのまま放っておくと、足のだるさやむくみ、かゆみや湿疹などの症状が出現し、最終的には色素沈着、皮膚潰瘍にまで進行します。常滑市民病院では、下肢静脈瘤に対する治療の中でも身体への負担が極めて小さく、日常生活への復帰も速やかに行える「血管内レーザー治療(レーザー焼灼術)」を採用しております。知多半島でレーザー治療を実施できる認定施設は当
院だけです。また、平成24年度4月から下肢静脈瘤に対する血管内レーザー治療が保険適用されるとになりましたので、気になる症状がございましたら一度外来を受診してみてはいかがでしょうか。

                                                                      


静脈瘤ができていても、症状が全くない人もいますが、静脈瘤ができると、「あしがむくむ」「あしがだるい」「あしが重い」「あしが痛む」「あしがほてる」 などの症状が出やすくなります。あしの筋肉がつる、いわゆる「こむら返り」もおきやすくなります。症状が重くなると湿疹、色素沈着や皮膚潰瘍などに進行し 女性に多いため美容上の悩みをかかえる方も少なくありません。静脈瘤の誘因は、「立ち仕事、出産、遺伝」です。お母さんや姉妹に静脈瘤がある女性に静脈瘤ができやすく、妊娠をきっかけに静脈瘤ができ、立ち仕事に従事したり、年齢がすすむにつれ静脈瘤が進行します。
                                                                      


血管には「動脈」と「静脈」があります。心臓からでた血液は、動脈を通って体の隅々にしきわたり、その後は静脈を経由して心臓に戻ります。血液が心臓へ戻 ることを「静脈還流」といいますが、この静脈還流には静脈の内側にある「弁」が大きな役割を果たしています(下図)。2本足で立って生活している人間では血液 はその重みで下の方へ戻ろうとします。この下への逆流を止めているのが静脈弁です。断面でみると、弁はハの字型をしているため、上向きには血液が流れても、下へは流れない一方通行の流れをつくっているのです。この静脈弁の機能不全が生じると、下肢静脈瘤ができてきます。
                                                                      


レーザー焼灼術が保険適応されるまで、よく行われている治療法は次の3つです。
◆弾力ストッキング
 ストッキング・パンストタイプ・ハイソックスなどの種類があり圧迫力も弱圧・中圧・高圧とわかれています。静脈瘤そのものが
 治るわけではありませんが、軽症例ではかなり効果が期待できます。
◆ストリッピング手術
 ストリッピング手術は、悪くなった血管内にワイヤーを通し、ワイヤーを引き抜くことによって静脈瘤を取り去る手技で、大伏在
 静脈あるいは小伏在静脈を引き抜き、さらに小さい皮膚切開により静脈瘤を切除するものです。多くは全身麻
 酔や下半身麻酔でおこなわれます。手術の傷跡が残り、1〜2週間の入院でおこなう施設が多いです。
◆硬化療法
 直接静脈瘤に薬(硬化剤)を注射します。硬化剤は静脈を癒着させペシャンコにする接着剤の役割をはたし、注射をした部位
 にしこりや色素沈着がおこりますが、次第に薄くなります。


常滑市民病院では「血管内レーザー治療」を行っています。レーザー治療は、正確には、「血管内レーザー焼灼(endovenous laser ablation: EVLA)」言い、静脈の中に細いレーザーファイバーを通してレーザーの熱によって静脈を焼灼して閉鎖させてしまう方法です。以前から行われているストリッピング(静脈抜去)手術は、太ももの悪くなった表在静脈を手術で取り除きますが、レーザー治療は血管の中から静脈をふさいで血を流れなくしてしまいます。
レーザー治療によるメリットとしては、@体に与えるダメージが極めて小さい、A傷口が少なく目立たない、B日常生活への復帰が速やかに行なえることなどがあげられます。

                                                                  


下肢に血液が溜まらないように普段から次のことに注意しましょう。
◆長時間の立ち仕事は避ける
 立ち仕事中は1時間の仕事に5〜10分間は、あしを心臓より高くして休息しましょう。休息がとれない方は、足踏みをしたり、
 歩き回ったりするのも効果的です。あしの筋肉を使うと、筋肉のポンプ作用で静脈環流がよくなります。
◆あしを高くして休みましょう
 夜寝るときには、クッションなどを下にしき、あしを高くして休みましょう。
◆弾性ストッキングの着用
 立ち仕事や外出のときには、弾性ストッキングをはいてください。
◆下肢を清潔に保つ
 日頃からあしを清潔に保ちましょう。


近年、人口の高齢化に伴い閉塞性動脈硬化症などの動脈の病気の増加、また生活様式の変化に伴い静脈疾患の増加も指摘されるようになりました。増え続ける血管疾患を効率的に正しく評価し、さらに進歩させ専門化し続ける診断機器や技術を駆使するためには、脈管疾患の診療に精通した専門医とトレーニングされた「CVT:血管診療技師」の育成が必要とされます。常滑市民病院では、臨床検査技師2名、看護師1名の血管診療技師がいます。血管外科を診療科にもつ病院で1名勤務していることが望ましいとされているところに、3名の血管診療技師がいるのはめずらしいと言われています。